続発する介護事故について、福岡市内にある特別養護老人ホームの2年間分の「事故報告書」を検証しているが、「死亡事故」は2年間で10件も起きていた。
刑事事件にまで発展したストレッチャーからの転落・死亡事故や、入浴時の溺水事故など、明らかに施設側職員の不注意などが原因と考えられる。背景にあるのが慢性的な人手不足であることは察せられるのだが、それだけで片付けられる問題ではない。
地元紙も報道
本社報道で始まった介護事故=介護崩壊の現状については、19日、地元紙も朝刊一面トップで扱い、社会面に解説記事を掲載している。
新聞報道は介護保険3施設、即ち特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護療養型医療施設の5年間分の「事故報告書」を検証、事故82件で死亡は29件にのぼることや、事故内容について詳報した。
近年、介護保険料の問題にのみ注目が集まってきたきらいがあるが、被保険者である市民が受ける介護サービスが、本当に支出に見合うレベルのものかどうかを、厳しい目で見つめなおす時期ではないだろうか。専門家からも、制度そのものの不備と、抜本的な見直しを求める声が上がっている。
命の重さ
戦後、労苦を重ね地域社会を築き上げてくれたお年寄りの方々の最晩年。称えられるべきその最晩年を、あってはならない介護事故で奪っていいはずがない。後述するが、取材する過程で、介護の現場の仕事がどれほど過酷であるか、ほんの一部分かもしれないが実例を挙げて示していただいている。一方、介護サービス施設を運営する社会福祉法人等の姿勢には疑問を感じるものが多い。様々な理由はあるにしても、お年寄りの命が軽く扱われているという印象を否定することはできない。
取材班は、特別養護老人ホームの「事故報告書」2年間分に介護事故の典型例が集中していると判断、個別の検証を続ける。介護崩壊への問題提起は命の重さを問うことに他ならない。
パーキンソン病の入所者、放置され窒息死?
事故報告書をご覧いただきたい。この事故は平成18年12月に起きた。入所者は75歳の男性、要介護度2とされるが、パーキンソン病であったことが読み取れる。
パーキンソン病は、身体バランスをとり運動をコントロールする脳の大脳基底核に病変が起き、神経間に情報を伝えるドーパミンをつくる黒質神経細胞が変性・消失するため、発症する難病とされる。分かりやすく述べれば、脳が出す運動指令が伝わらなくなり、通常の動きができなくなるという病気で、原因は解明されていない。
症状は5段階に分類されているが、手足のふるえなどに始まり、動作緩慢、歩行困難とゆっくり進行し、日常生活の動作そのものができなくなるとされる。ドーパミンを補う薬や筋弛緩剤など、治療薬には有効なものがあるとされるが、投薬にあたっては、医師の指示を守ることはもちろん、慎重さが要求されるという。
パーキンソン病についてごく基礎的なことを認識した上で、事故についての検証を進めてみよう。そこには、難病を抱えた入所者を放置し死亡させたという施設側の過失はもちろん、事故報告を受けた市役所側の「不作為」も見えてくる。
つづく