介護事故の生々しい現状を伝える「事故報告書」。しかし、その記載内容は、介護サービス施設ごとにバラバラである。特に<警察への連絡の有無>については、事故の真相究明に大きな意味を持つにもかかわらず、全く同様の窒息事故でさえ「有」と「無」に分かれる。問題は、異常死の警察への届け出が法律(医師法)で義務付けられているのが「医師」に限られており、特別養護老人ホームなどの介護サービス施設には、法令で届け出を義務付けていないということである。
厚労省は、平成11年に省令で、運営などに関する介護サービス事業ごとの「基準」を定めている。しかし、事故発生の場合、(保険者である)市町村や入所者家族への連絡を規定しているだけで、警察への届け出については何も記されていない。福岡県が事故報告について定めた「要領」にも警察への連絡については言及していない。つまり、施設側にその判断を委ねているのである。警察への連絡をしなかったからといって、処分されるわけではない。
昨日から紹介してきたように、同一事故でありながら警察への連絡対応が異なるような事態が生じるのはそのためである。少なくとも、施設側の過失が認められるような重大事故については、警察への届け出を義務付ける必要があるのではないだろうか。介護事故を闇に葬らせないためにも必要なことであろう。介護現場の事故にとどまらず、虐待防止にも効果があると思われる。しかし、残念なことに、現状はこうした期待とは逆行していた。
福岡市バラバラの様式統一へ 事件隠し助長との指摘も
実は、福岡市へ提出された過去の「事故報告書」の様式は、統一されたものではなかった。昨日紹介した2件の報告書には<警察への連絡>欄があるのだが、2年間分の特別養護老人ホームの事故報告書15件中、4件分には<警察への連絡>の欄そのものがない。2番目に検証した溺水事故の事故報告書には、該当の欄はなかったのである。その点を市監査指導課に指摘したが、古い様式のものや、現在の県の「要領」に従ったものなど、施設ごとに使用する様式がバラバラになっていたという。ずいぶんいい加減な話である。今年6月から、様式を統一するようになったというのだが、驚いたことに<警察への連絡欄>はなくなっていた。(参照)
介護現場で事故が多発する現状を考えると、今回の様式統一は「事件隠し」につながる恐れがある。ストレッチャー転落・死亡事故は<警察への連絡>の有・無の確認から刑事事件へと発展し、特養―協力病院の事故隠しともとれる行状が明らかとなった。
人の命を預かる施設であるにもかかわらず、なぜ警察への連絡という、当然と思われる義務を軽く扱うのだろう。行政は介護サービス業者に甘い、との批判が出るのもうなずける。
福岡市は、施設側の過失などによる重大事故について、警察への連絡、届け出を指導する姿勢が見えない。事故報告書記載の注意事項に「交通事故・はいかい・自殺等であれば警察」と記されているに過ぎないのだ。事件性の有無は警察でなければ判断できない。ましてや施設側と協力病院などの医療機関が結託して「事件」を隠蔽した場合、真相は闇に葬られるのである。
「事件隠し」を助長する現行制度の不備は、改善されるべきであろう。
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