「市長はなぜ出席しないのか」「場所が変わったら子どもの命にかかわる」「結論ありきではないか。わたしたちが訴えることで覆るのか」―。涙ながらの患者家族の訴えは、予定時刻を一時間超過しても、止むことはなかった。
福岡市立こども病院・感染症センター(同市中央区)の建て替え問題で、市は5日に院内で説明会を開いた。患者家族ら約70人が参加。市保健福祉局が人工島移転を最適とした経緯を説明したが、通り一ぺんの説明に患者家族の不満は爆発した。
患者家族らが出席を要請した吉田宏市長の姿はなく、「なぜ出席しないのか。患者の不安や懸念は伝わっているのか。『聞きたかけん』が公約ではないのか」などと、市トップの無責任な姿勢に、出席者から怒りの声があがった。
説明会で市は、当仁中や六本松九大跡地など他の移転候補地について「敷地面積」「経済性」「まちづくり」といった評価でのデメリットを並べた挙げ句、人工島を適地としたことについて「都市高速ランプから近い」「今後街が成熟に向かい、それに伴って公共交通機関の充実も図られる可能性が高い」などと都合の良いメリットだけを主張。
これに対し患者家族らは猛反発。「利便性が悪い」「弱者は郊外にやり、自分たちは中心部にいるのが市政のあり方か。市役所が人工島へ行くべきだ」「百道のように時間の経過した埋立地と人工島とは違う。橋が凍結したら交通網もない。不安要素が多すぎる」「これだけ反対がいるのになぜ強行するのか」「東区へ移ったら困る。病院がなければ生きられない患者の身になって考えてほしい」などと悲痛な叫びがつづいた。
予定時間を超過しても収拾はつかず、阿部亨 保健福祉局長が「もう一度院内で説明会を開きます。質問だけ聞き取ります」と、再度説明会を開催することを約して幕引き。結局、最後まで患者家族らの疑問や怒りに対し、誠意ある回答はなかった。
「はじめに人工島ありき」の市側、「こどもの命」を第一に考える患者家族。かみ合うことのない議論にむなしさを感じるが、どちらを優先すべきかは歴然としている。本社がスクープした移転用地4ヘクタールの「闇交渉」が進む中、市長と議会の政治姿勢も問われる。
市は7月中を目途に人工島での整備計画を決定するとしているが、10日に市役所で、再来週(日時未定)に再び同病院で説明会を開く予定。患者家族や市民の訴えは届くのか、注視したい。