暴力団排除の金融ルール
スルガは光誉と二人三脚を組んだ。03年当時、倒産寸前に陥ったスルガは、光誉への地上げ委託により息を吹き返した。04年ごろから業績は急伸。報道によると、スルガは光誉に地上げを委託した5棟を建て替えて、取得価格より約270億円高い約1,000億円で売却したというから凄い。スルガには、「光誉さまさま」だったのだ。
この事件に絡んで、創業者の岩田一雄会長兼社長は兼務していた社長を辞任。同時に、立ち退き交渉を光誉に委託する窓口になっていた高城竜彦取締役(48)も引責辞任した。不動産業界の話題になったのは高城氏のほうだ。高城氏の父親は高城申一郎氏。住友不動産(株)の社長、会長を13年間務めた業界の大物だ。息子の高城竜彦氏は元証券マン。お騒がせマンとして新聞沙汰になり、証券界にいられなくなっていたのを、スルガの岩田会長が拾って取締役に引き上げた。
今回の事件で、警視庁は光誉側の12人を弁護士法違反(非弁活動)容疑で逮捕した。立ち退き交渉は、所有者以外は弁護士しか行なえないが、弁護士でないのに立ち退き交渉をしたのは非弁活動にあたると判断したためだ。暴力団関係者に地上げを委託した責任はスルガにあるが、スルガ側からは逮捕者は出なかった。法律では、非弁行為の罪では依頼主を処分できないからだ。普通の人間にはなんとも釈然としない法解釈だ。
その代わり、金融・司法当局は、スルガを証券市場から退場させることにした。暴力団との関係が深い、光誉との関係が表面化した時点で、スルガの破綻処理が決定したと見て間違いないだろう。暴力団と関係のある企業への融資は即ストップするのが、新しい金融ルールとなっている。
スルガの08年3月期の連結売上高は1,258億円、経常利益197億円と過去最高を記録した。にもかかわらず、倒産に追いやられたのは、暴力団排除という金融ルールに抵触したというのが最大の理由だった。
メスが入る新興不動産
転換点になったのは、昨年春に摘発された2つの事件。1つは、東証マザーズに上場している(株)アイ・シー・エフ(現・(株)オーベン)を、元山口組系暴力団幹部率いる梁山泊グループが食い物にしたという証券取引法違反(偽計取引)事件。株を買い占めてアイ社に入り込み、インチキ内部情報を公表して株価を吊り上げ、高値で売り抜けていた。
もう1つは、大証ヘラクレスに上場していた(株)アドテックスの民事再生法違反事件。アド社の経営の混乱に乗じて、元山口組系暴力団組長が乗っ取り、民事再生法の適用を申請(その後、破産)。直後に、会社資金を不正に流用した。
この2つの事件は、安全で公正であるべき株式市場に、暴力団関係者がいとも簡単につけ込んでいた実態をさらけだした。事態を重く見た政府は、07年6月、「反社会的勢力による被害を防ぐための指針」を公表。これをきっかけに金融界も本腰を入れ始めた。
昨年暮れ、金融庁は、銀行や保険会社、証券会社、貸金業者などに、暴力団など反社会的勢力との関係遮断に向けた監督指針の改選案を作成し、警視庁との連携強化を求めた。これにより、金融庁と捜査当局の連携が強化された。警視庁は水面下で、上場不動産会社による暴力団への資金提供の立件に向けて動き始めた。カタカナ社名の新興不動産会社やREIT(不動産投資信託)とアングラ勢力との蜜月にメスを入れることにしたのである。その連携プレーの第1号がスルガだったのだ。
この動きに敏感に反応したのが証券市場。業績悪化で倒産するのではなく、反社会的勢力と持ちつ持たれつの関係がある新興企業は、融資が即中止となり、破綻に追いやられることが分かったためだ。
こうして、暴力団と関係が深い新興不動産会社として「USA」なる言葉が生まれた。Sはスルガコーポレーション。では、UとAはどこか?