スルガコーポレーション事件は思わぬ方向へ波及した。貸し渋りや貸しはがしの懸念である。金融庁が金融機関に対し、特定業種への融資を抑制するよう指導しているというのだ。「金融庁の指導があるからお金を貸せない」と、貸し渋りの口実に金融庁を使っている金融機関も出てきているという。反社会的勢力の資金源になった企業は潰す。司法・金融行政の断固たる姿勢を見せたのが、東証2部上場の不動産開発会社、(株)スルガコーポレーション(横浜市)の破綻劇だった。その劇薬の副作用は、あまりにも大きかったようだ。
反社会勢力排除の指針
企業の生死は市場の法則に委ねるべきで、行政が介入するのは行き過ぎだという論が経済界にはある。そのため、スルガ社を潰すべきではなかったという意見が強い。
スルガ社の財務内容は、倒産するような状態ではなかった。08年3月期連結決算は、過去最高の業績をあげている。売上高は対前期比55.8%増の1,257億円、経常利益は同51.6%増の197億円。自己資本は545億円で、自己資本比率は43.9%。資産超過になっており、財務内容の悪化が倒産の原因ではない。
原因はただひとつ。買収したビルの入居者の立ち退き交渉に、暴力団と関係が深い地上げ屋を介在させていたことだ。これが発覚し、金融機関の蛇口が閉まった。資金調達ができなくなったスルガ社は、資金繰り難に陥り、黒字倒産に追い込まれた。
これまで、地上げ屋や総会屋など、アングラ勢力との関係が明るみに出た企業は少なくない。その場合、社長や会長の経営トップが引責辞任して事態の収拾が図られ、融資がストップすることはなかった。ところが、スルガ社の場合は融資が即刻停止となった。
その転換期が訪れたのは、昨年6月。政府の犯罪対策閣僚会議幹事会が、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」と題する企業指針を決定した。暴力団が活動資金を稼ごうと、証券取引や不動産売買に進出するなか、企業がこうした勢力の資金源になることを防ぐのが狙いだ。
これをきっかけに、金融界も本腰を入れ始めた。金融庁は昨年12月18日、各金融機関向けの監督指針を改定。業務の適切性の章に、「企業が反社会的勢力による被害を防止」という項を新設した。「反社会的勢力との一切の関係遮断」という項目には、こう記されている。
<反社会的勢力による被害を防止するためには、反社会的勢力であると完全に判明した段階のみならず、反社会的勢力であるとの疑いを生じた段階においても、関係遮断を図ることが大切である。勿論、実際の実務においては、反社会的勢力の疑いには濃淡があり、企業の対処方針としては、(1)直ちに契約等を解消する、(2)契約等の解消に向けた措置を講じる、(3)関心を持って継続的に相手を監視する(=将来における契約等の解消に備える)などの対応が必要となると思われる。
ただ、いずれにせよ、最終的に相手方が反社会的勢力であると合理的に判断される場合には、関係を解消することが大切である。>
金融庁は、暴力団など反社会的勢力との関係遮断に向けた監督指針の改選案を作成し、銀行や保険会社、証券会社、貸金業者などに、警察との連携強化を求めたのだ。これにより、金融庁と捜査当局の連携が強化された。警視庁は水面下で、上場不動産会社による暴力団への資金提供の立件に向けて動き出した。カタカナ社名の新興不動産会社やREIT(不動産投資信託)とアングラ勢力との蜜月にメスを入れることにしたのだ。
その連携プレーの第1号がスルガ社だった。スルガ社の倒産は、反社会的勢力の資金源となった企業がどうなるかの見せしめであり、モデルケースだったのである。
つづく