最初はオーナーに感謝
どの企業においても『実質オーナーが会長で社長が雇われの場合』には警戒心で精査することを心がけること。これは企業調査マンの基本である。企業が儲かっているときには、オーナー会長と雇われ社長の間には反目はない。ところがだ。企業の経営環境が悪化するとお互いの間には責任のなすり合いが発生する。この首脳陣の軋轢が一挙に破綻に疾走することになる。丸美の場合にもその法則が生きていた。
上場するという名目のもとに、オーナー金丸氏が会長になり、中堅ゼネコンの支店長に就いていてスカウトされた宮崎氏が、社長に就任したのは2006年7月、ちょうど2年前ことであった。2年前というのは丸美が下り坂を辿りはじめた頃であった。「宮崎さん、よく社長に座りましたね。オーナーの金丸氏が貴方に経営全般を任してくれますかね」と嫌味な質問をした。「いやー、オーナーは『好きなように経営をしてくれ』と言ってくれています。この抜擢には命を賭けて恩返しをします」と決意を語ってくれた。
そして不動産市況の悪化に伴って、丸美の経営環境は下り坂を駈けて行った。宮崎社長は関係者に頭を下げて回るのが日常になった。「オーナーの金丸氏は腐るほど金を持っているでしょう。個人資産を提供させるように勧めたら」と助言した。「個人資産を隠すような汚いことはしないでしょう。会社そのものがオーナーの命だからです」と宮崎社長は金丸氏を固く信頼し弁解をしてくれた。「代表取締役社長だから、当然、個人保証もしているのでしょう」と質問をしたら「個人保証はしていますが、あくまでも不動産担保の枠で処理できていますから、最悪の場合でも個人の実害は発生しません」と、この忠誠心には感服した。
社員からもオーナー批判の声が起きる
不動産処理、銀行交渉、と宮崎氏は社長として、特に今年になってからは関係者に説明(釈明)と陳謝に奔走しまくった。この必死な対応を目撃している社員たちからは、「オーナーの金丸会長自身が頭を下げて回るべきだ」という批判の声が強まってきた。2ケ月前には社員たちに対してのオーナーの威厳を失ってしまったのであろう。金融機関も交渉の窓口を宮崎氏に絞ったようだ。金丸氏には『担保資産提供者としか見なくなった』と聞く。
宮崎氏からもこのあたりから「オーナーは本当に財産を隠匿しているのではなかろうか?」という懐疑心を露にするようになった。「あー、やはり宮崎さんも金丸氏の放漫経営の後始末をするのが馬鹿らしくなったのだな」と直感した。努力をする以上に周囲の環境は悪化するばかりで打開の糸口が見えない。同氏が焦燥感に駆られる心理状態に陥ることには同情できた。
「金丸会長は絶対に金を溜めている。隠している」と確信犯のように断定する関係者もいるが、人の懐を探しても判明できないのは自明の理である。どちらに判断を下すかは全く余地不能である。惜しむらくはオーナーの金丸氏が毅然と関係者に平身低頭に対策説明に回っていただきたかった。
つづく