経営の継続性について、重大なリスクがあると開示された「危ない会社」が100社を超えた。08年3月期(および9月中間期)の決算書に、企業が存続できるかどうか(ゴーイング・コンサーン=継続企業の前提)に関するリスク情報を記載した上場企業(東京証券取引所、大阪証券取引所、ジャスダック証券取引所)は、07年3月期に比べ31社増え、108社となった。開示制度が始まった03年3月期以来最高を記録した。
新興市場が急増
東京証券取引所の調べによると、東証に上場している08年3月期(および9月中間期)決算の企業のうち、監査意見の追加情報に「ゴーイング・コンサーン(以下GC)に関する注記」がある企業は、1部18社、2部18社、マザーズ13社の合計49社。07年3月期の37社に比べ12社増えた。
大阪証券取引所では、東証と重複上場している企業(9社)を除くと、07年3月期の18社より6社増え24社。ジャスダック取引所では、22社より13社増え35社。
その結果、3取引所合わせて108社、07年3月期の77社より31社増えた。新興企業や公共事業の減少に直面する建設業界などを中心に増えており、減速を強める景気の現状を反映したと言える。
リスク開示企業の大幅な増加は、監査法人が監査を厳格化していることが背景にある。なかでも東証マザーズ、大証ヘラクレスの新興企業市場で急増したのが大きな特徴だ。
東証マザーズが13社、大証ヘラクレスが11社、うち17社が情報通信関連のIT企業だ。これは両新興市場に上場している3月決算企業の12%を占める。新興市場を除いた東証と大証の1、2部、ジャスダックでGCがついた企業の割合は3%強、新興企業はその4倍の発生率となる。新興企業の底の浅さが表れた格好だ。
飛島建設、ぴあにGC
監査法人が目を付けたのは、「営業損失」や「赤字」の拡大。公共事業の減少や原材料価格の高騰に苦しむ建設業界では、11社がリスク情報を開示した。中堅ゼネコンの飛島建設は、海外・国内とも不採算工事が発生し、08年3月期には108億円の最終赤字を計上、7期連続で当期損失を計上したため、5期ぶりに注記がついた。
日本での販売権を持つ英スピード社製水着で一躍脚光を浴びたゴールドウィンは、2期連続の営業損失、秋葉原の家電量販店ラオックスは、減収に歯止めがかからず連続赤字、洋菓子の不二家も赤字だ。原材料価格の高騰も影を落とす。ローマイヤと相模ハムは食肉価格の高騰、北日本紡績は素材価格の高騰などから営業赤字に陥った。
銀行が融資の際の条件としている「財務制限条項」もGCの要因になる。ぴあは純資産の金額が前年度の75%を下回り、制限事項に抵触した。チケット販売というニュービジネスの旗手だったが、紙媒体からネット媒体というビジネスモデルの転換に立ち遅れたのが響いた。プレハブ住宅中堅のエス・バイ・エルや焼肉チェーン大手の安楽亭は、借入金の制限事項に抵触してGCの注記がついた。
相次ぐ倒産
すでに倒産企業が出た。暴力団関係に地上げを依頼したことが発覚し、金融機関からの融資がストップしたため、監査法人が異例の意見不表明を出した不動産開発のスルガコーポレーション、営業損失の計上を注記した中堅ゼネコンの真柄建設、子会社の近藤産業が倒産したマンション分譲のゼファー、この3社は民事再生法の適用申請に追い込まれた。
子会社の倒産もある。ジェイオーグループホールディングス傘下のジェイオー建設が倒産。創薬ベンチャーのLTTバイオファーマは、子会社アスクレピオスが巨額詐欺の舞台となり倒産した。
昨年倒産した上場企業は6社だったが、今年は昨年の件数を上回る。今期は景気の悪化から、経営の継続性について重大なリスクがあると開示される企業がさらに増加するのは確実だ。
【ゴーイング・コンサーン】
ゴーイング・コンサーン(GC、継続企業の前提)は、監査人が監査先の企業が存続するかどうかについて意見を表明するリスク開示制度。監査人の求めで、経営者は自社が1年以内に破たんするリスクが極めて高いと判断したら、破たんリスクとそれへの対応策を決算書に明記しなければならない。03年3月期から開示が義務づけられた。投資家にとっては、監査人が認めた「危ない会社」、言わば「イエローカード」をつきつけられた会社という意味合いがある。