"ミニバブル"と称され、活況を呈していた不動産業界。オフィスビル・マンションを買い漁る投資ファンドの需要に後押しされ、都心部の地価は高騰、不動産会社は不動産ファンドに物件を供給することで業績を伸ばし、好況が続いた。しかし、サブプライムローン問題以降は状況が一変、物件は売れず、資金に窮したデベロッパーは資金調達に奔走している。
不動産ファンドの衰退
1990年初頭にバブルが崩壊し、"失われた10年"と呼ばれた90年代後半。金融機関は、バブル期のツケである不良債権となった担保物件を売却し、それに狙いをつけた国内外の不動産ファンドが都心部の一等地を買い漁り始めた。不動産会社はこの需要を満たすために、不動産流動化(証券化)という手法を用い、こぞって物件を取得・供給したことで、都心部の地価は高騰の一途を辿っていった。
ファンドに物件を供給する不動産会社は急激に業績を拡大させ、不動産市場は活況を呈し、"ミニバブル"と称されるほどに成長。その後も首都圏の地価が高騰し、より良い物件を求める不動産ファンドは地方都市へと投資対象を拡大。全国的に地価上昇が見られるようになり、都心部の一等地ともなれば、バブル期の地価を超える価格での取引も行なわれた。
しかし、この状況も長くは続かず、構造計算書偽装問題に端を発する改正建築基準法施行による混乱で、住宅着工数は昨年6月以降大幅に減少。サブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)問題や材料価格の高騰なども相まって、昨年から徐々に業界に対する暗雲が立ち込め、今年に入ってからは急激に業界環境が悪化していった。
今では、豊富な資金力で土地を買い漁ってきた不動産ファンドは影を潜め、積極的に融資を行なってきた金融機関も厳格化により融資をストップさせるなど態度を一変。業績を拡大させ、栄華を誇っていた不動産会社も資金調達がままならず、企業によっては在庫処分のメドも立たない不動産会社が急増している。
バブル崩壊後の余波は
今年に入って、不動産市況の悪化は加速し、高騰していた不動産価格も下落。3月には、大阪証券取引所の新興市場であるヘラクレス市場に上場していた不動産ファンド運営会社(株)レイコフが約420億円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請した。同社は1ファンド当たり40億円前後の規模のファンドを30本ほど組成し、3年満期で償還、証券会社を通じて小口の投資家を募り、総額1,600億円ほどの資金を集めていた。現時点で元本割れしたものは無いが、今後については不透明な状況であり、元本割れへの不安など新たな問題に発展する可能性も秘めている。
不動産業者の動向に注目が集まるなか、東京証券取引所第2部上場企業であった(株)スルガコーポレーションも負債総額約620億円で倒産した。反社会的勢力とのつながりが直接の原因と言われ、金融庁の指導による同社への融資打ち切りが倒産の要因となった。同社が民事再生法の適用を申請したことで、新興不動産会社の株価は軒並み暴落した。
また、業界後発企業ながら東京証券取引所第1部上場を果たし、中堅デベロッパーに成長した(株)ゼファーも、7月18日に負債総額約949億4,800万円で民事再生法の適用を申請。子会社の近藤産業(株)が倒産し、08年3月期当初に予想していた当期純利益12億4,100万円を当期純損失▲113億7,800万円に下方修正。業務提携を結んでいた(株)ソフトバンクインベストメントも支援を諦め、そのまま民事再生となった。
このような状況下、新興不動産会社に対する見方はさらに厳しさを増している。福岡でも、中堅デベロッパーである(株)インベスト(負債総額約97億円)や不動産管理において九州トップクラスの実績を誇る(株)丸美(負債総額約210億円)が倒産し、その影響は、その他関連業界にまで波及している。
信用失墜の新興企業
●アルデプロ
東証マザーズに上場している(株)アルデプロも株価の下落に歯止めがかからない。中古不動産をリニューアルすることで稼働率アップを図り販売する不動産再活事業というビジネスモデルにより業績を拡大させ、近年の売上高は増収傾向にあった。しかし、サブプライムローン問題の影響により、物件の販売が思うように進まず、在庫は増加。購入先が見つかっても、金融機関が不動産に対する融資を控えているため、在庫処分に苦戦しており、08年7月期の業績予想(単体)を大幅に下方修正した。
売上高は当初の601億円から650億円になっているものの、資産の評価損を約65億円、子会社株式売却損を約7億円、投資有価証券評価損を4,300万円計上することで、当期純利益を当初予想していた22億円から▲78億4,000万円にまで下方修正している。この発表を受けて同社の株価はさらに下落。現在、各地に展開していた支店・営業所の統廃合に着手し、08年5月に札幌・仙台支店を閉鎖、6月に横浜支店を閉鎖、8月20日に名古屋・大阪支店の閉鎖を予定している(残る支店は広島支店・福岡支店のみ)。
08年初頭の株価は20,000円を超えていたが、近年の新興不動産会社に対する信用不信、先日発表された業績の下方修正などにより、8月8日時点で3,270円にまで下落している。
●サンシティ
東京証券取引所第1部に上場し、東北地区を代表するデベロッパーに成長していた(株)サンシティも苦境に立たされている。主力事業である地方都市での分譲マンション販売では、M&A戦略などを活用して営業範囲を拡げ、不動産流動化事業へも積極的に取り組み業績を拡大させていた。しかし、売却を予定していた不動産流動化案件が立て続けに破談するなど苦戦を強いられている。
前日発表された業績予想の修正では、売上高を565億3,500万円から300億円、経常利益を26億7,900万円から▲25億9,400万円、棚卸資産ならびに子会社株式の評価損の計上により、当期純利益を15億9,400万円から▲91億1,200万円へと下方修正、08年12月期は無配当となる見通しだ。株価も低迷しており、年初時点では17,000円台を推移していたが、8月8日時点で3,900円にまで下落している。
●ジョイント・コーポレーション/ランド
また、東証1部上場企業で不動産流動化に積極的に取り組んでいた(株)ジョイント・コーポレーション、横浜に本社を構える新興の不動産会社(株)ランドなども、自社の年商を超える有利子負債を抱えるなど負債の増加も相まって、株価下落に歯止めがかからなくなっている。このほかにも、中堅・新興と言われる不動産会社の株価は軒並み下落しており、急激に業績を伸ばした歪みからか市場での信用を失っている。
不動産業界の今後
(株)長谷工総合研究所が発表した08年上半期の首都圏マンション供給戸数は、2万1,547戸(前年同期比▲23.8%)と2年連続で2万戸台となり、94年以降最低の数字となった。分譲価格は、首都圏全体で1m2当たり64万9,000円(前年同期比5.7%上昇)となったが、千葉県では前年同期比3.1%下落するなど、立地条件・商品企画により価格の見直しも始まっている。
下半期については、供給戸数2万7,000戸と上半期を上回る見込みだが、在庫の削減ペースは遅く、供給を絞り込む傾向は継続すると予想されるため、通年予測である6万戸を大幅に下方修正し、4万8,000戸としている。改正建築基準法の影響による住宅着工件数の大幅な減少、サブプライムローン問題に端を発する世界的な金融市場の混乱、原油・原材料価格の高騰による建築費の上昇、需要者の買い控えなど、今後も業界環境は極めて厳しい状況が続くと予想されている。
金融機関も不動産に対する融資を控え、不動産ファンドの需要も激減、不動産価格の下落により多額の評価損を抱える不動産会社も多い。今後も金融機関の融資姿勢が緩和されない状況が続けば、地方の不動産会社はもとより、現在、株式市場からの信用が失墜している新興不動産会社の大半が倒産することも予想される。
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