福田首相は改造内閣を「安心実現内閣」と呼び、「消費者重視」を掲げた。だが、政治家や役人が「消費者重視」と言い出した時には眉につばをつけてかかる必要がある。役所はそれを口実に規制を強化し、民間企業の経済活動に介入する。その結果、経済にプラスをもたらしたためしがない。多くは、経済活動を阻害し、必要以上に申請書類が増え、役人の数と天下り先が増殖していく。政策にもそれが現れている。2つの事件から、「官僚国家」の断面を探ってみた。
「消費者庁構想」で隠された毒ギョウザ事件の企業責任
食の安全が問われた毒ギョウザ事件では、国民の怒りは一足飛びに中国・天洋食品に向けさせられた。そこに大きな違和感を覚える。
中国産の食品にリスクがあることは世界の常識だ。欧米では食品だけでなく、中国製のおもちゃにまで有害物質が使用されていたと輸入禁止措置をとっている。日本でも、早くから中国産野菜の残留農薬が問題になっていた。それでも、日本の国民は食を中国に大きく依存しており、輸入を全面禁止することは現実的ではない。かといって、役所の輸入検査段階で膨大な量の輸入農産物や食品を全部検査することも不可能だ。
では、どうすれば良いのか。毒ギョウザは「生協ブランド」で販売され、ブランドの安全性を信じた消費者が被害者になった。“毒見役”にさせられた消費者が最大の怒りを向けるべきなのは当然、生協のはずだ。しかも日本生協連は、保管中の被害が出たのと同じ製造年月日のギョウザを、検査もしないまま中国側の調査団に渡してしまうという失態を演じている。
生協は、輸入元のJTフーズの責任を問うべきだろう。JTフーズは生産委託先の天洋食品の生産工程の改善を迫られる。そうやって一つ一つの企業責任を明確にすることによって、企業は安全管理に責任を持たされ、中国の工場へのチェック体制も強化される。遠回りなようだが、消費者が中国製食品の危険性から身を守るには、「売り手」の責任を質し、危険な食品を売った企業を市場から排除するしかないのだ。かつての雪印も、船場吉兆も、客(消費者)の信用を失って退場させられた。
ところが、政府は「消費者重視」と言いながら、毒ギョウザ問題ではなぜか国民の目を中国・天洋食品に向けさせるばかりで、真っ先に取り組むべき国内の売り手の責任を追及しようとはしない。日本生協連、JT、JTフーズともにトップ以下の減俸など自主的な処分を発表したものの、通常の企業であればとっくに下されているはずの行政処分はいまだに無いのである。生協は強力な政治力を持ち、JT(旧専売公社)は言わずと知れた財務省直系企業だからなのだろうか。
その代わりに、福田首相から出てきたのが「消費者庁」という新たな役所をつくるという構想だった。毒ギョウザ事件で問うべき企業責任を問わない役人が、役所を新設しさえすれば国民の安全を守れるなどとは幻想だろう。問題のすりかえであり、消費者の不安を煽って官僚組織の焼け太りに走っているとしか思えない。この一事をもっても「消費者重視」がいかにいかがわしく、消費者無視のスローガンかが分かる。
ちなみに、日本生協連はこの7月28日、福田首相宛てに、「消費者庁の創設を歓迎し、期待しております」という意見書を提出した。語るに落ちた話ではないか。
つづく
国滅びて霞ヶ関あり 不況の引き金引いた官僚派閥(下)の掲載は本日(8月26日)14:00。
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