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【特別寄稿】本日開催!「官製不況に打ち克つ」シンポジウム 前佐賀市長 木下敏之氏
特別取材
2008年8月26日 10:00

官製不況は誰が作り出したのか

 「官製不況」という言葉だけでなく、最近では『行政不況』という本が出版されるなど、行政による新たな法律改正や運用変更をもとにした経済の大きな落ち込みを批判する雰囲気がようやく出てきたが、その代表例は、2006年6月の建築基準法の改正だろう。07年6月の施行以来、建設業界は大混乱となった。建築確認手続きが大幅に遅れ、資金繰りに窮した建設業者の多くが倒産したのだ。残念なことに、食品偽装などの不祥事が相次ぎ、この記憶は国民の間にはだんだんと風化しつつある。国レベルではこれ以外にも、貸金業法の規制などさまざまな規制強化によって、関連業界が経営の危機に瀕している。

地方自治体の果たした役割

 地方レベルで言うと、地方自治体が自ら大きな制度変更を行なうことによって不況を作り出したということはあまり無いと思うが、この建築確認手続きの遅れにしても、制度は国が作っているものの、審査を行なっているのは市町村である。地元の建設業者が困っているのなら、審査ができる人を高い給料を支払ってでも雇ってくるとか、少しでも審査が早くなるように人員を増やすとか、国に準備作業を急ぐように必死になって陳情するといったことは可能である。また、もっとも現場に近い存在なのだから、建設業界の意見をよく聞いて、この改正が現場に大混乱を引き起こすことを国に伝えるべきだった。しかし、残念ながらそのようなことをしようとした自治体は無いようだ。なぜなら、市役所の建設部局は、本気で地元の企業の繁栄を願ってはいないからである。

 理由は簡単だ。地元の企業の業績が向上しようがするまいが、役人の給料にはまったく関係ないからである。役人の給料は、人事院勧告に準拠して民間企業の給与の状況に合わせて昇給があるが、この民間企業というのは従業員が50人以上の企業で、中小・零細企業は入っていない。また、世の中が不況だとしても、役人の給料が出ないということもない。
 私が市長をしているときにこんなことがあった。例えば下水道工事で、市役所が想定していたよりも地盤場が悪かった場合、当然、工事費を増額しなくてはならない。また3年前には、すでに中国などの影響から、鋼材やセメントの価格が上昇を始めていたので、当初の予定していた単価が市場価格よりも安くなる場合もあり、小学校の建設など鋼材をたくさん使う工事では、当然、工事費を増額しなくてはならない場合もあった。
 しかし、設計変更や工事費の増額変更を市役所の担当者は決して認めようとはしなかった。赤字で悩んでいた建設会社の人から直接陳情があり、調べて見ると、増額には上記のようなきちんとした理由があったのにも関わらずだ。

 このケースでは、増額を命令して工事費を変更させたが、役所の技術者のなかでは、当初予定していた設計や事業費を変更するのは、自分の腕が未熟であることを認めることになり、また、役所の権威を落とすことにもなるので、変更は良くないこと、恥ずかしいことという文化があるのだ。
 すでに役所の技術者の多くは、企業の技術者よりもレベルが落ちている。これも理由は簡単で、自分たちで直接設計や工事監督をせず、委託に出してばかりいたからだが、企業人よりも自分たちの技術力が低いということが分かっているから、権威を示すために変更を認めないという心理もあるかもしれない。
 この技術力の低下を緊急に解消するには、民間で豊富な経験を積んだ人材を職員として中途採用するしかないのだが、この動きは残念ながら拡がらない。

企業損失に無頓着な役所

 ほかにも、地方の経済発展を阻んでいる制度はいくつもある。例えば、既存の工場用地が狭くなって拡大したいのにもかかわらず、農地の転用許可が国からなかなか下りないことがある。優良農地とされている農用地区域の転用は非常に難しく、しかも4ヘクタール以上の転用は、農林水産省の許可が必要である。
 これには非常に時間がかかるのだが、最近の工場の建設は、企業が意思決定をしてから半年以内で着工にこぎつけるというスピードである。これに、国の動きはまったくついていけないのだ。世の中の経済活動のスピードが上がっていることを理解していないせいでもある。

 一方で、最近の役所の流行なのか、電子自治体と称して、各種の申請手続きをインターネットを通じてできるようにする「電子申請」制度を盛んに整備している。しかしこれは、企業側に立った発想ではない。
 企業の側からしてみると、申請から許可が下りるまでに、どの程度の手間と時間がかかるかが問題なのである。とくに時間だ。申請をしてから何カ月もかかるようでは、その間ビジネスは止まる。その間の金利負担や、人材の手当て、逸失利益など、大きな負担だが、そのことには役人はまったく無頓着である。実は私も今でこそ民間人として働いているので、このことを身に染みて知っているが、役人をしていたときは、企業の損失にはあまり現実感がなかった。
 「役人が無頓着」と言うよりも、大部分の役人は役人しか経験が無く、経済活動とはどういうものかを知らないのだから、無理も無いとも言える。建築確認手続きが何カ月も遅れると、どの程度の損失が発生するかなど、ぜんぜんピンとはこないのである。

役人だけが原因ではない

 さて、このような行政のもたらす不況や経済活動の障害は、一体誰のせいだろうか。役人というものは、給料と身分が安定しているので、企業のことを理解して行政を進めたり、世の中の変化に柔軟に対応したりすることが、そもそもできにくいという特徴がある。しかし、これでは困る。この欠点を是正し、住民や企業のために行政を行なえるように監視する役目を持っているのが、選挙で選ばれた首長や議員なのである。
 そのため、私は昨年の建築確認申請の遅れが表面化したとき、建設業界あげて自民党に圧力をかければ、この問題はすぐに解決するのではと思っていた。少なくとも、市役所レベルでは、すぐに予算を増やしたり、関係職員を増やすことは造作もないことである。選挙時、あれだけ中心になって活動する建設業界であるから、自民党に圧力をかければ、当然、作業が遅れた国土交通省の役人は左遷される人が続出し、大臣や副大臣は何らかの責任を取るとばかり思っていた。ところが、何も目立った変化は無かった。

 理由はどうあれ、皆さんの選んだ議員や首長が、この建築基準法改正の問題では、まったく役に立たなかったことは事実である。役人をコントロールできる力が無いのだが、それは、そのような政策立案能力と実行力の無い政治家を選んだ皆さんの責任なのだ。そして、そのような力のある政治家だったとしても、日々、どぶ板をしないと当選しないようでは、きちんと政策を立案し、役所をコントロールすることなど困難である。

 官製不況を起こした役人は大いに糾弾すべきである。制度の改正を働きかけたり、当時の責任者の処罰を要求すべきだ。そして、建築基準法の改正のときに、議員や首長が何をしていたのかを調べるべきである。まったく役に立たなかった議員には、しかるべき対応をしなくてはならない。
 そのうえで、皆さん自身がこれまで以上に政治や行政に関わり、政策と実行力で議員を選ぶ、そのように変わっていかないと、この問題は繰り返されるだろう。
 これから日本は、ますます厳しい時代になる。経済活動がしやすくなるような政治・行政を作り出すのは、皆さんの意識を変えることから始まる。それができなければ、日本は官僚国家として、ふわふわと漂いながら没落の道を歩んでいくのだ。


本日(8月26日)開催する「官製不況に打ち克つ」シンポジウムは、会場・ホテルニューオータニ3階での受付も行っております。
シンポジウムの詳細はこちらから[PDF] >>


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