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安易なMBOブームに警鐘 | 東京レポート
特別取材
2008年8月 6日 18:38

すかいらーくの創業家と投資会社が泥沼抗争

 MBOブームに冷や水が浴びせられた。外食大手・すかいらーく(東京都武蔵野市)の横川竟(きわむ)社長と、大株主であり、MBOの提携先である投資会社との対立が表面化した。野村証券グループなど投資会社2社は、7月23日に開催された臨時取締役会で横川社長の退任を要求。8月12日には臨時株主総会を開き、横川社長を解任して新たな資本増強を急ぐ方針で、横川社長の後任には、すかいらーく生え抜きの谷真・常務執行役員を抜擢する予定。一方、創業家出身の横川社長は、自らの続投を条件に、サントリー(大阪市)の佐治信忠社長に出資を要請して抗戦する構えだ。

 すかいらーくの件が引き金になり、買収防衛策としてMBOを実施する上場会社が相次いだ。非上場化することで、はたして事業を再構築できるのか。すかいらーくはMBOのモデルケースとなっていたのだ。だが、手を組んでMBOを実施した両者が泥沼の抗争に突入。本件は、MBOの試金石である。とも言えよう

MBOの狙い

 すかいらーくは2006年、MBO(経営陣による自社株買収)によって非上場になった。2,700億円のMBO額は国内最大級。MBOに参加した投資会社は、野村証券グループの野村プリンシパル・ファイナンスと英投資ファンド、CVCキャピタルパートナーズの2社。TOB(株式公開買い付け)を実施して、すかいらーく株を買い取り、野村が61.5%、CVCが35.6%の計97.1%を保有している。

 すかいらーくは70年に「横川4兄弟」が創業したことで有名。長男は横川端氏。養子に出た2男の茅野亮氏が創業以来、38年間すかいらーくの社長を務めた。3男が横川竟氏、4男が横川紀夫氏。「東のすかいらーく、西のロイヤル」は、ファミリーレストランの黄金時代を築いたライバルとして有名。

 03年に4兄弟全員が退任。「子どもには経営を継がせない」という“創業の誓い”を実行。4兄弟の同時退陣は潔いと評価された。06年、3男の竟氏が会長兼最高経営責任者(CEO)に返り咲いた。復帰した狙いは、やがてわかることになる。

 MBO実施以前、創業一族が保有する株式は、4兄弟と一族の資産管理会社エス・エイチ・コーポレーション(SHC)が保有する分とを合わせて約18%であった。ところが、SHCが海外投資で多額の借入金を抱え、銀行から返済を迫られたことから、SHCが保有するすかいらーく株を売却して、借入金の返済と安定株主の確保を計画。三井物産に打診したが、価格面で折り合わず同社は降りた。そこで取り入れたのが、投資ファンドと組んでMBOを実施し、すかいらーく株の全株式を取得して、非公開化してしまうスキームだった。

 創業家一族にとって、MBOは「おいしい話」だ。株式上場で巨額なキャピタルゲインを得た創業家には、非公開化するために保有株を売却することにより、更に多額のキャッシュが転がり込んでくるためだ。これをSHCの借金返済に当てても、オツリは十分残る。新たに出資することによって生まれる「新すかいらーく」が上場すれば、再び上場益を手にすることができる。1粒で3度、果実を味わえるのである。

MBOはマネーゲームだ

 金融機関や投資ファンドにとっても、MBOは「おいしい商売」だった。そもそもMBOは、投資ファンドが自ら儲けるために考案した仕組みだ。投資ファンドは買収資金を出して筆頭株主になる。つまり、実際に買収するのは、経営陣ではなく投資ファンドなのである。

 投資会社2社のMBO資金は、19行からなる銀行団が出したが、主力行であるみずほ銀行の新宿副都心支店は、単独で約1,000億円以上を融資している。当時の同支店支店長は、M&A分野におけるみずほ銀行の地位を向上させたとして、頭取表彰を受けたという。
 敵対的買収に資金を出すことには世間的風当たりが強いが、経営陣も加わって行なわれる友好的買収に対しては、抵抗はない。銀行は新たな収益源としてMBOに力を入れた。

 とはいえ、MBOとは企業買収に名を借りたマネーゲームであるのも事実。経営者と投資ファンドが手を組み、株式を安く買い取って、いったん非上場化する。リストラでスリム化した後、再上場。大株主であるファンドには多額の上場益が入る。経営者と投資ファンド、そして資金を出す金融機関の三者による錬金術というのが実態だ。
 三者はそれぞれの思惑を込めてMBOを実施。すかいらーくは09年の再上場を目指すことになる。

再上場が遠のいた赤字決算

 消費不振で外食産業が構造的な不況に陥るなか、すかいらーくの事業再構築も難航した。経営の主力を中華レストラン「バーミヤン」と和食店「夢庵」から、低価格ファミリーレストラン「ガスト」へと移行させる業態転換を急いだ。だが、07年12月期の連結決算は、収益の低落に歯止めがかからず、最終損益は130億円と、前の期より膨らんだ。

 この結果、09年の再上場は絶望的となった。投資ファンドとしては、再上場によって資金を回収し、上場益を手にするというシナリオが狂ったことになる。MBO資金を融資した銀行の方も、優良債権だったはずのものが、不良債権になりかねないことから、当てが外れたとみるべきだ。MBOを用いた案件の業績低迷がはっきりしてきたことにより、「銀行と投資ファンドは、どうやって資金回収するのか。けだし見もの」という声が金融界で囁かれるようになった。

 そこで動いたのが、投資会社2社というわけである。再上場による資金回収が遠のいたため、創業家から経営権を剥奪し、すかいらーくを転売して資金を回収するのではないか、とみられている。
 これに対して、横川社長ら創業家側は、外食産業との相乗効果が見込めるサントリーに、自らの続投を条件に支援を要請したわけだが、サントリーは銀行団の動向がはっきりするまではと、慎重な姿勢を崩していない。

 攻防のキーを握っているのは、みずほ銀行をはじめとする銀行団である。社長を退任させるためには、MBOを実施した際に資金を提供した銀行団の了解を必要とする、という条項があるためだ。投資会社2社は、社長解任の必要性について、銀行団に説明しているところだが、すかいらーくの労働組合が投資会社を支持したことにより、大勢が決したと言える。

 創業家の影響力が強い上場企業では、「究極の企業防衛策」としてMBOがブームになった。しかし、創業家と投資ファンドの蜜月は、今や終わったとみられる。なぜなら、再上場が難しいとなれば、MBOに要した資金を回収するために株を転売するのが、投資ファンドの本質であるからだ。創業家の味方では決してない。まさに同床異夢である。すかいらーくの大混乱は、買収を逃れるために安易にMBOに走る経営者に対し、警鐘を鳴らしたと言えよう。 

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