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特別取材

MBOを隠れ蓑にした錬金術(下) | 東京レポート
特別取材
2008年8月14日 10:10

究極のインサイダー

 MBOをめぐっては、経営者による「究極のインサイダー」と受け取られかねないマネーゲームも行われた。疑惑にさらされたのは、レックス・ホールディングス(東京都港区)のMBO。創業者は西山知義会長。六本木ヒルズ族として名を馳せた人物だ。95年、東京・三軒茶屋で小さな焼肉店を創業。焼肉チェーン「牛角」を核に、コンビニの「am/pm」、高級食品スーパー「成城石井」を買収して3本柱にした。

 06年11月に投資ファンドのアドバンテッジ・パートナーズと組んで、レックス株のTOB(株式公開買い付け)を行い、1株23万円で株式を取得した。株式取得額は457億円。このMBOに反対する法人株主1社と個人株主120人が07年4月に、買い取り価格を公正に決定するよう求める訴訟を東京地裁に起こした。レックスは業績の大幅な下方修正を発表し株価は急落。その直後にMBOを実施した。その結果、1年の平均株価は約35万円だったのに、株価誘導によって23万円と安値で手放さざるをえなくなったと主張する。

 インサイダーと見られたのも無理はない。MBOは経営者が恣意的に株価を誘導しかねないとして、証取法では第三者評価機関の鑑定書をとることを義務づけている。この義務化が12月13日から行われるのを見越して、その前にMBOを駆け込み実施した。しかも、西山氏はTOBに合わせていったん持ち株を放出したあとに、上場廃止されるレックスに拒否権を有する33.4%を出資した。それだけ出資して、再上場による上場益を狙うからには、買い取り価格を下げたい。かぎりなくクロに近いといわざるをえない。

 レックスの「インサイダー疑惑」は、大流行のMBOに深刻な影響を与えた。MBOを実施する1年前くらいから準備をしておけば、悪材料を公表して株価を落とし、買い取り価格を下げて、安く買い取ることができるからだ。そして、再上場すれば、大金が転がり込んでくるのである。そのため安く買い取られて不利益を被った株主は訴訟を起こした。東京地裁はレックスが提示した1株23万円の買い取り価格は妥当と判断したが、株主側は直ちに抗告している。

マネーゲーム化したMBO

 オーナー経営の上場企業で、MBOがブームの様相を呈したのは、1粒で2度おいしい果実を口にできることがわかったからだ。彼らにとってMBOとは、非公開化を利用したマネーゲームである。投資ファンドが株式を買い取って、いったん非上場化する際、創業家は保有株の売却で巨額な現金を手にできるためだ。リストラでスリム化して再上場すれば、大株主の投資ファンドには多額な上場益が入る。創業家と投資ファンド、そして資金を出す金融機関の三者による錬金術というのが実態だ。
 すかいらーくとレックスは、MBOを悪用したことで名をとどめる。皮肉にも、両社とも外食、小売業の構造的な不況で、再上場の見通しは立ってない。再上場の思惑が外れた投資ファンドとの対立が火を吹くは、すかいらーくの次はレックスだ。 

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