負債総額2,558億円と今年最大級の倒産となった東証1部上場の不動産開発会社、アーバンコーポレイション(広島市、房園博行社長)。外資系金融機関と裏契約を結んでいたことが明らかになり、株式市場で波紋を広げている。この裏契約のために、アーバンの社債発行による資金調達額が実質的に3割に減ったためだ。
社債を引き受けたのは仏金融大手BNPパリバ。裏契約で荒稼ぎする外資と、その餌食になる一般投資家という構図が、ここでも繰り返された。
300億円のCB発行
アーバンは6月26日、BNPを割当先に300億円の転換社債型新株予約権付社債(CB)を7月11日に発行すると発表した。「資金は短期借入金の返済にあてる」が、CB発行の理由である。株式市場では「当面の危機は去った」という見方が広がった。
だが、「これには裏がある」と首をかしげた金融関係者も少なからずいた。どう見ても、BNPに有利とは思えなかったためだ。しかも、アーバンの倒産は「時間の問題」で、リスクは極めて大きいのである。
「USA」。今年の春頃から、証券界で囁かれていた反社会的勢力との関係が指摘される新興不動産会社の頭文字だ。金融当局は、暴力団の資金源を断つために、反社会的勢力と関係がある会社には融資を即ストップする、という新しい金融ルールを打ち出した。新ルールの適用第1号が、Sの頭文字のスルガコーポレーション(横浜市)だ。
次は、Uの頭文字のアーバン(英語名はURBAN)。蛇口を締められるアーバンが夏場を乗り切るのは難しい、と見られていた。そんな時、アーバンの救世主として現れたのがBNP。300億円のCBを引き受けるというのだ。資金繰りのメドがついたのである。
しかし、疑り深い金融関係者は、額面通りに受け取らなかった。破綻するとわかっている企業に、300億円という大金をつぎ込むほど、外資はお人よしではないからだ。CBを引き受けるからには、「裏がある」と考えたのも無理はなかった。
金融機関が担保権行使
アーバンは7月7日、房園博行社長(45)が金融機関に差し入れていた持ち株の担保権が行使された、と発表した。これにより、房園社長の持ち株比率は、16.60%から4.03%に一気に低下。筆頭株主ではなくなった。
房園社長は、こう釈明した。金融商品への投資や不動産取得、ベンチャー企業への投資に、アーバン株を担保に金融機関から融資を受けた。株価下落で追加担保を求められたため、新たに持ち株を担保に追加した。結局、金融機関は担保権を行使し、個人が保有するアーバン株のほとんどが売られてしまった、と。
中国財務局に提出された大量保有訂正報告書によると、担保権を行使した金融機関は6社。担保権の行使は、6月23日から始まっている。追証を払えなくなったため、早々と見切りをつけた金融機関が回収に入ったのだ。
金融機関が回収を進めているなか、アーバンは7月11日、BNPを引受先とする300億円のCBを発行した。BNPは、時の氏神になるはずだった。しかし、金融関係者が疑ったように「裏」があったのだ。
調達できたのは92億円
8月13日、アーバンは民事再生法の適用を申請。同時に、BNPと「スワップ」と呼ばれるデリバティブ取引を結んでいたことを開示した。倒産というドサクサに紛れて、裏契約をさりげなく表に出したのである。
裏契約には、驚くべき内容が盛り込まれていた。アーバンがBNPから調達した300億円は、スワップ契約によりBNPに戻されていた。300億円をいったん引き取ったBNPは、CBを株式に転換して売却した資金で、アーバンの株価水準に応じ、2010年7月までに総額300億円を順次払う契約だった。スワップ契約に基づいた方式で計算された額が、少しずつ振り込まれるだけで、アーバンに300億円は入っていなかったのである。
開示された裏契約によれば、スワップ契約は、VWAP(出来高加重平均価格)に連動してヘッジ比率や対象株数などが算出されるため、アーバンへの支払額は株価によって変動する。その仕組みは、複雑なため省く。
このスワップ契約の最大の問題点は、金融関係者によると「下限株価」が設定されていることにあるという。株価が下限価格を下回った場合は、アーバンへの支払いがゼロになるということである。
下限株価は、7月28日から8月13日は250円に設定されている。発表日に344円だった株価は下がり続け、民事再生法の適用を申請した前日の終値は63円まで下落。下限株価を下回ったため、BNPからの支払いはストップ。アーバンが受け取ったのは、計画の3割の92億円にとどまった。これで資金繰りに窮したアーバンは、破綻したのである。
株価が下がるほど儲かる仕組み
では、BNPは、どうやって利益を稼いだのか。これまた複数の企業とのデリバティブ契約を使ったややこしい仕組みのため、簡単に説明しよう。
BNP側は5月頃に空売りをかける。7月11日に、300億円のCBを引き受けたBNPは、約8,720万株のアーバン株を取得できる権利を得た。直ちに権利を行使し約4,000万株を株式に転換。空売りの決済に使う一方、市場で売却。売却して得た資金の一部は、アーバンへの支払いに充てた。残る4,720万株もすでに空売りの決済に使われ、売却したとされる。
空売りしている場合、決済時の株価が空売り時の株価を下回るほど売却益が出る。空売り時の株価は600円台。売却時の株価が新株予約権の行使価格344円を下回って損を出しても、空売りの決済の売却益のほうがはるかに大きい。しかも、「下限株価」を下回れば、アーバンに支払わずに済む。
BNPは、アーバンの株価がどんどん下がるほど、空売りの売却益が膨れ、アーバンの支払いがゼロになる、という2重のメリットを享受できる。300億円は全額回収、アーバンに支払った92億円を大きく上回る売却益を手にした。一般投資家に、紙きれになるアーバン株を押し付けて、BNPは荒稼ぎしたのである。
アーバンはスワップという裏契約を結んでいたことを破綻するまで公表しなかった。BNPだけがボロ儲けできる仕組みがバレてしまうためだ。BNPは、このスキームをどうやって房園社長に飲ませたのか。自分にメリットがなければ、受け入れるわけがなかろう。ここにも「裏がある」との疑惑がささやかれている。