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天下のトヨタ、集団訴訟さる トヨタ流のビジネス手法を疑問視
特別取材
2008年8月22日 11:32

 数多くの原告からなる集団訴訟(クラス・アクション)は、米国の企業社会を揺さぶってきた。対岸の火事かと思われてきたが、米国をお手本に弁護士数を大幅に増やす日本の司法制度改革が進むなか、日本でも従来の左翼&運動家型弁護士の枠組みを超えて、ふつうの弁護士が大企業を相手取ってクラス・アクションを起こしつつある。その標的に選ばれたのが、なんとトヨタ自動車。司法制度改革の旗振り役だった財界総本山が狙われるのはまったく皮肉なことである。

 「国内で年に一度の楽しいお祭りが、こういう集団訴訟に発展してしまったことは大変残念です……」。8月15日、東京地裁705号室。トヨタ子会社の富士スピードウェイを相手取った損害賠償請求訴訟の第一回口頭弁論で、109人の原告を代表した男性の意見陳述に法廷は静まり返った。彼の話は、まるでベトナム戦争の従軍記のような惨状を思い浮かばせたからだ。

 バスを待つこと4時間。やっと乗車してもサーキットに着くにはさらに2時間もかかった。帰りは午後4時に席を立ったにもかかわらず、延々と続くバス待ちで帰宅は翌日の午前1時をすぎていた。雨が降る中、長時間のバス待ちに気分を悪くする人も多かった。救急車のサイレンが途切れることなく続いたが、脱出できる人は少ない。「あなた、もう我慢できない……」。まだ若い女性があたりの目をはばかりながら草むらで用を足す。トイレは汚物であふれていた――。

 昨年9月28日から30日にかけて、30年ぶりに富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で行われたF1日本グランプリ(GP)は、会場運営の不手際がたたってF1ファン109人が同社を相手取る集団訴訟に発展している。
 もともとF1日本GPはホンダの鈴鹿サーキットで1987年から2006年まで20年間開催されてきた。それをF1に参入したトヨタが奪取しようと2000年に富士スピードウェイを買収。200億円をかけてコースを改修し、07年から富士でレースを開催することにこぎつけたのだ。

 もともと山の中にある同レース場は車が通れる導線が3本しかなく、4、5万人収容のレースでも大渋滞を繰り返してきた。それだけに、最大で1日14万人が参加した昨年のF1日本GPでは、約3,000台の送迎バスを使った「チケット&ライド方式」を採用。観衆は、最寄り駅など18カ所からピストン輸送されるバスに乗って、レース場である富士スピードウェイにたどり着くはずだった。
 しかし、これが裏目に出て、折からの雨も加わって、大渋滞が発生したのだ。道路が陥没し、レースに間に合わない観客が続出。たとえ間に合っても観客席の設計がずさんだったため、着席するとレースが見えない客席が数多くあることも発覚した。さらにレースが終わると、レース場の設備は定刻どおりに閉鎖される一方、バス待ちの客はそのまま放置されるなどといった不手際が枚挙に暇が無かった。

 怒った神奈川県在住のF1ファンが昨年10月、被害を訴えるホームページ上に立ち上げたところ、賛同者が相次ぎ、今回の集団訴訟の原告団が形成された。損害賠償請求額は1人あたりチケット代と慰謝料20万円と弁護士費用5万円で、総額約3,200万円になる。インターネットというツールから自然発生的に原告団が形成されるユニークな展開となったが、それ以上に興味深いのは請け負った原告側弁護士たちだ。1人を除いて社会運動や大企業相手の訴訟はあまり経験がない。「ネットがなければこれだけの原告は集まらなかっただろうし、1人当たりの損害額も大きくはないため、今までだったら訴訟に発展せずに泣き寝入りだったでしょう」と弁護人の1人は言う。原告団のメンバーも、裁判での勝敗よりもトヨタ方式の是非を問う「世論喚起を狙っている」と明言しており、一種の運動として行っているのは明らかだ。
 彼ら原告側が問題視しているのがトヨタ流のビジネス手法だ。レースを黒字運営するには14万人の観客が必要と、現地の実情を無視して14万人集客を前提にしたスケジュールや輸送体制が組み立てられたという。「ホンダのように長年のレースの蓄積が無いのにもかかわらず、トヨタは押し切った。富士スピードウェイのプロパー社員の憂慮する声を押し切ってトヨタからの天下り組みが強行したと聞いています」。そう原告側関係者は打ち明ける。

 対するトヨタ側は「訴えの棄却を求める」(富士スピードウェイの代理人弁護士)としているが、原告側は「トヨタ側の報道プロパガンダにはまやかしが多い」と徹底的に争う予定だ。弁護士数の増員と裁判にかかる時間の短縮は、トヨタなど財界が強く求めてきたことだが、増え続ける弁護士はビジネス弁護士として企業から仕事を請け負う一方で、「食い扶持」を求める上で逆に企業を襲う事例もあらわれそうだ。富士スピードウェイ訴訟はそんな司法の世界の変化も表している。

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