「非武装がもっとも安価で強力な武器である」。ペシャワール会の中村哲医師は、丸腰で交流する意義をこう述べている。日常的に危険が付きまとうアフガンでは、武器を持たずに相手の警戒心を解くことが、逆に身を守る術だということだ。
実際に、アフガンで武装したアメリカ兵に死傷者が出たときも、同会のスタッフが襲われることはなかった。丸腰のボランティアは、憲法9条を具現化した理想の交流・支援だった。
実行犯については、「タリバンではないか」「パシャイー部族2人の身柄を確保した」といった情報も流れている。中村医師は近年、「元々アフガンの人々は親日家だったが、最近は日の丸の旗を掲げると逆に危険」と語っていた。丸腰で警戒感を解き、現地に溶け込んでいても、「アメリカに協力している日本人」というレッテルが、アフガンでの活動を危険なものにしていった可能性も考えられる。
同会の伊藤和也さん(31)が武装した4人組に拉致された今回の事件は、そんなペシャワール会の「平和の理念」にも影響しかねない。「9条で国民を守れるのか」。そんな議論に発展する要素もはらんでいる。