アフガニスタンでペシャワール会(本部・福岡市)の伊藤和也さん(31)が、拉致され死亡した。5年近くも異境の地で農業指導を行い、現地の人たちからも慕われていたという。日本人として世界に誇れる実績を残し、銃弾に倒れた伊藤さんのご冥福を心から祈りたい。
アジアのノーベル賞とも言われる「マグサイサイ賞」を受賞するなど、世界から高い評価をうけるNGO団体「ペシャワール会」が、今回の事件で、福岡市に本部を置いていることを知った市民も多かったようだ。同会現地代表を務める中村哲医師もまた、福岡の人である。「国際都市」「アジアの玄関」を標榜する福岡市にとって、ペシャワール会の活動はなに者にも代えがたい貴重な財産といっても過言ではない。同会の本部が福岡市にあることの意義を吉田宏市長は考えたことがあるだろうか。
その福岡市が、とんでもない判断ミスを犯していたことが明らかとなった。8月26日、伊藤さんの誘拐が報じられ、福岡市中央区のペシャワール会本部事務所は騒然となった。同本部の事務所は大名の雑居ビルの一室にあるが狭く、殺到する報道陣であふれんばかりの状態だった。広くない一室に30人を超える報道陣が詰め掛け、周辺の道路もテレビ局の中継車が停車できないほどの狭さである。
現場の記者たちから、会見などに提供される場所の確保を求める声が上がったのは言うまでもない。そこで、近くでもある「福岡市役所」に会見場の使用を申し入れたという。申し入れを行なったのは市政記者クラブの幹事社である。しかし、福岡市の報道課はあっさりと会見場の使用を断った。容認できない判断ミスである。
28日、事実確認のため市報道課長に話を聞いた。報道課長は会見場の使用を断った理由として、「庁舎管理上の問題」と、「市政運営に関する問題ではない」という2点を挙げた。「庁舎管理上の問題とは何か」と確認したところ、深夜になれば管理者として市職員を常駐させなければならないという。「深夜に職員を置くことが、嫌なのか」と追及すると、「そうではないが…」と歯切れの悪い答えが返ってきた。
「市政運営と関係がない」という市側の判断についても納得できる回答は得られなかった。「福岡は『国際都市』を標榜しているのではなかったか」との質問には、明快に「国際都市です」と答える。
「福岡市に本部を置き、国際的に高い評価を受けている団体に対し、なぜ市が手を差し伸べることを考えなかったか。それで国際都市だのアジアの玄関だのと言えるのか」。すると、ここでやっと「配慮が足りなかったかもしれません」との言葉が出た。
配慮が足りないでは済まされない失態である。会見場使用を断ると決めたのは報道部長と相談してのことだという。市長の判断さえも仰いでいないとしているが、市役所の中から「何かできることはないか?」という声さえ上がらなかったとしたら、「国際都市」の威信は地に落ちたと言うしかない。