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【人生のエナジーは限りなく】 町金融の世界に生きた男の述懐(2)
連載コラム
2008年9月 2日 14:00
井土 芳雄 [いづち・よしお]
1947年7月25日 福岡生まれ
福岡大学 法学部卒業
手形割引を主業務とする市中金融業に勤務
退職後、現在はフリーランスの身となる

市中金融業のイロハ

 1971年、昭和46年3月、井土にとってみれば当初さまざまな躊躇(ためら)いはあったが、その社長の紳士然とした風姿に玲瓏たる富士の姿を見たが如く、その身を打たれ、それ故に辟易(たじろ)ぐこともなく意を決し、その社長に我が身と人生を委ねることにした。

 「大学も卒業しましたので、入社前の3月いっぱい、旅行にでも行こうかなと思っています。いわゆる卒業旅行と言うやつで、3月中には戻ってきますので」
とりあえず社長に卒業の挨拶に伺うと、
 「井土君、うちは今のんびりしている状況じゃない。とても忙しくなってきており、人手がいくらあっても足りないのだよ。君が4月に入ってきても即戦力にはならない。それどころか社員の誰かが教育係として、仕事の手を取られることになる。そんな余裕は今のうちには無い。卒業したのなら、直ちに入社してくれたまえ」
 「そうですか、承知しました。さっそく準備して出社します」

 こうして井土は71年3月、手形割引を主業務とする市中金融業に入社した。
 大学では法学部に学び、金融、経済については皆目理解していなかった井土だったが、入社と同時に社長から金融業、とくに手形割引に関して、イロハのイの字から徹底して教え込まれ始めた。

 「井土君、手形が持ち込まれた時はまず何を見る?」
 「それは社長、やはり持ち込んできた企業の経営状況や、直接、持ち込んできた人間の様子や人となりを見るのじゃないですか」
 「井土君、重要なことはそんなことじゃない。持ち込んできた方は手形を早く現金化したいだけなのだよ。手形にとって大切なことは表書きにある振出人、振出し企業をしっかりと確認して、そこの調査をすること。もちろん裏書人も同様だ。そして2番目。これが意外に重要。手形と言うものは当然のことながら有価証券だ。だから手形にも『相』というものがある」
 「『相』ですか? それは人相の『相』と同じようなものですか?」
 「まさにそうだよ。銀行の届け出印の押印の仕方。綺麗な印もあれば、どこかが欠けている印もある。だが、欠けているからといって低く見てはいけない。このような印鑑は古くから使われていて、長く使われてきたからそうなったと見ることができる。だとすれば、その企業自体に歴史があることが類推できやしないか。歴史が長いということは、それだけ信用がある会社と見ることができるからな。また、チェックライターの数字の姿や打ち方、丁寧なものもあれば、乱雑なものもある。そして宛先が明確か、振出日がきちんと正確に書かれているか。これが手形を受け取ったとき、一番に見なければならない重要なことなのだ」
 「そこに記載されている情報だけで見分ける、そして見抜く力が必要となるのですね」
 「そうだ、井土君。そして手形を見ただけで、何の経済調査、情報調査、そして経営状況の調査をしないまま、この手形であれば割り引くことができると判断できるようにならなければならない」
 「大変なことですね」
 「市中金融はそれだけのリスクを背負っている。単なる情報や調査だけで判断すると、間違った判断を下すことは少なくないぞ」

 社長の厳しい教育のなか、日々、手形を穴が開くまで見つめ、ポイントをチェックし始めた井土は、時が経つうちに金融マンとしてのスキルと、プライドを少しずつ持ち始めていった。
 しかしながら、銀行とは違う次元にある市中金融業。いくら井土にスキルとプライドが醸成され始めていても世間の目はそうは見てくれない。井土はある日、それを知ることになる。

つづく


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