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カンボジア正月の悲喜交々 心を打たれた人生模様 (下) | CMC特別レポート
特別取材
2008年9月 5日 09:30

地雷被害者とエイズ患者

 町中の賑わいを見て、地雷被害者やエイズ患者の様子が気になった。エマージェンシーホスピタルでは、病室のベッドが患者でいっぱいで、大勢の職員がお正月など関係なく働いていた。院内にはお見舞いに来た家族や友人で溢れており、お正月ということもあってか、患者の横には家族が寄り添い、会話を楽しむ姿があった。みんな田舎に帰って、ほとんど患者さんはいないだろうという予想は見事にはずれた。

 入院患者の多くは重傷を負っており、痛々しかった。この病院では、交通事故で運ばれてくる人が急速に増えているそうだ。病室では、包帯を巻き、足を吊っている人を多く見たが、そういう人たちは交通事故だろう。一方、地雷被害者は足を失っており、歩行用の杖を持っているため一目で分かるが、それがとても悲しかった。足や腕の治療を続ける人たちのなかに混じって、治療する足さえも失ってしまった地雷被害者は、どんな思いで入院生活を送っているのだろうか―。

 そのとき、小さな2人の姉妹とその母親に出会った。彼女らは3歳と4歳ぐらいで、2人とも腕に小さな包帯を巻いた。怪我はそれほどでも無いようだったが、地雷被害者だと聞いて驚いた。彼女らと一緒に病院に運ばれてきた従兄の少年は、地雷の爆発でお腹が引き裂かれ、病院に運ばれてきたときにはすでに手遅れだったそうだ。姉妹と少年が一緒に遊んでいて、少年が地雷を触ったとき爆発してしまったらしい。

 子どもが地雷や不発弾に触れ爆発してしまうケースはとても多く、「彼女らはこんな軽い怪我で済んで本当に運が良かった」とドクターは言った。

 翌日、第5軍病院を訪れた。ここにはエイズの外来患者と入院患者がいるが、お正月で半分以上の患者が故郷に帰っていたようだ。入院患者の病棟に行くと、数人のカンボジア人が庭のベンチで話していた。彼らは「まあ座って!」と温かく迎えてくれた。思い切って「HIV?」と聞くと、全員が「そうだ」という。信じられなかった。「痛い?」と聞くと、「とても痛いし、いつ痛くなるか分からない。急に全身が痛くなる」と答えてくれた。非常に苦しそうな表情でハンモックに寝ていた一人の女性が小さな声で、「何か食べられるお金をちょうだい」と言った。彼らは、食後に3種類の抗HIV薬を飲む。

 病院で生活している、ある親子。この日、父親は体調が悪かったのか、とてもきつそうな表情でベッドに横たわっていた。症状はかなり重く、顔から足の先まで黒い斑点のようなものが広がっていた。HIVウイルスが彼の体を蝕んでいく―まさにそう感じさせる症状だ。恐ろしい、本当に怖い。人間をダメにしてしまうHIVが憎く思えた。横で娘が「お父さんと一緒に写真撮りたい!撮って!」と笑顔で言う。このカメラを彼に向けて良いのだろうか、と思わずためらったが、「娘が言うのなら」という顔でこころよく応じる父親。そして、うれしそうに寄りそう娘。強い親子の愛を感じた。

 父親が亡くなってしまったら、この子はどこで暮らせるのか、どんな将来が待っているのか―何よりも父親との別れが間もなく訪れることを思うと、悲しくて仕方がなかった。

浮かび上がる違う世界

 4月14日はエマージェンシーホスピタル、4月15日は第5軍病院、4月16日はお寺のお祭りと、さまざまなカンボジアのお正月の姿を見た。カンボジア人にとって、このお正月はとても大切で、一年に一度の特別な日であると感じた。何よりも、家族とみんなでゆっくりと楽しく過ごせる日で、コップタックとマサウにみんなでとても盛り上がり、興奮した。一方で、そうした正月とはまったく違うお正月を過ごす人もいた。とくに印象に残ったのは、第5軍病院の前の通りをハイスピードで走るピックアップトラックの姿。トラックの荷台には20人以上もの人がぎゅうぎゅうになって乗り、何台も何台もみんな同じ方向を目指して走っていく。病院の患者たちに「みんなどこに向かってるの?」と聞くと、「トンレサップ湖に遊びに行ってるのよ。私たちには行くお金がないから無理だわ」という答えが返ってきた。たしかに、この病院にいると、医療費はかからないが稼ぎもなく、遊びに行くなど考えることもできないのだ。トラックを遠目に見る患者たち。病院の中と外では驚くほど違う世界が広がっていた。弱い立場の人だけがどんどん取り残されていくカンボジア。それがくっきりと浮かび上がるクメール正月であった、と井上さやかは結んだ。


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