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【人生のエナジーは限りなく】 町金融の世界に生きた男の述懐(10)
連載コラム
2008年9月12日 11:37
井土 芳雄 [いづち・よしお]
1947年7月25日 福岡生まれ
福岡大学 法学部卒業
手形割引を主業務とする市中金融業に勤務
退職後、現在はフリーランスの身となる

手形に付きまとう犯罪行為‐1

 バブル故に狂騒乱舞し、金儲けに狂奔していた金融業界だが、とくに市中金融業では、日本の経済構造の底辺を支える中小企業との密接な関係が築かれていた。
 そのため、あらゆる手形が井土の手元、足元を通り過ぎて行った。その種類は多岐にわたり、膨大な数となっていたのは言うまでもない。それらは正当なものばかりではなく、犯罪行為の中で生まれた手形もかなりの数にのぼった。

 当時、井土の会社は業務拡大を図るためにパート従業員6名を雇用し、新規顧客向けの営業部隊としてテレフォンアポインターをやらせていた。
 電話での営業となるため、相手先企業はどこでも選ぶことができた。あるとき、パートタイマーが間違ってさる大手企業に電話を入れてしまったが、社長が出てきて非常に良い応対をしてくれた。
 その社長は懇切丁寧に言うのであった。
 「今度うちで手形を振り出すから、その相手先を教えてあげよう。そこは地場の中堅企業だけど、手形は割引に出すはずだから、客として獲得できると思うよ。うちの振り出しタイミングに合わせて、そこに電話してみるといい。」

 実にありがたい話であった。紹介された企業に電話を入れると、早速その手形が井土の会社に持ち込まれてきた。
 振り出した企業も大手、受け取り側も地場の中堅企業ということであれば、それは優良な手形であり、額面も相応の額だったため、会社も喜んで割り引いた。その後も幾度か手形の割引を行ない、「いい付き合いのできる営業先ができた」と喜んでいた。
 ところが、そのような付き合いが続いていたある日、少々おかしな匂いのする手形が持ち込まれてきた。しかし、そこは市中金融業である。「おかしい!?」と感じることができたのであった。そして様々なルートを通じて情報収集をしてみた。結局あるルートを通じて危険情報に行きつき、その手形に付きまとうおかしな事情が判明した。
 その手形が、中堅企業の経理担当・女性社員の犯罪行為によって割り引かれたものだ、ということである。
 それは、以下のような犯罪手法に基づくものであった。
 女性社員は、ほかの社員の目を盗みつつ手形帳の一番下の手形を引き抜き、勝手に金額を入れ込んでから会社印を押印し、そうして有印偽造した手形を割引きに持ち込み、現金化を図っていたのだ。
 井土の会社は、その手形により被害を受け、焦げ付きを生じさせるようなことはなかった。しかし、それら一連の犯罪行為は新聞沙汰となり、事実が白日の下に晒されることになった。それら一連の出来事が引き金となり、中堅企業は倒産してしまった。

 今、その中堅企業の社長であった人物は、倒産の悲劇から立ち直り、改めて会社を立ち上げている。
 ある日、井土がその社長に出会った時、その社長は井土にこう語った。

 「倒産は自分が悪いわけでも、自分に責任があるわけでもない。あの犯罪に巻き込まれたことをきっかけに、自分はある商社から騙されてしまっただけなのだ。」

 確かにそうなのであろう。しかし、その話にどこまで信憑性があるのか、今となっては定かではない。
 ただ言えるのは、社内で犯罪行為が行なわれるような不安定な社内管理体制しか敷けていなかったこと、犯罪行為に対する危機管理意識が欠けていたこと、そして仮に騙されていたにせよ、付け込まれるような隙を作ってしまっていたことである。
 厳しい話ではあるが、経営者は危機管理意識を持つべきである。隙のない身構え・態勢にもとづく経営環境作りが、経営者に課せられた厳しくも難しい課題であることは、間違いない。

 市中金融にいたからこそ、直接体験することとなった犯罪行為。しかし、犯罪行為はこれだけではなかった。

つづく



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