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【人生のエナジーは限りなく】 町金融の世界に生きた男の述懐(11)
連載コラム
2008年9月13日 12:30
井土 芳雄 [いづち・よしお]
1947年7月25日 福岡生まれ
福岡大学 法学部卒業
手形割引を主業務とする市中金融業に勤務
退職後、現在はフリーランスの身となる

手形に付きまとう犯罪行為‐2

 手形流通の真っただ中にいると、様々な出来事に遭遇する。時に、ただならぬ責任の伴う立場にある人達が、裏で暗躍するような侮蔑すべき変事に、思いがけず出くわすことがある。
 ほとんどの一般市民は、凡庸なる生活を、日々営々と営んでいる。一般市民が、以下に記すような犯罪行為・経済スキャンダルに身を晒すようなことは、ほとんどあり得ない。自らが平和と平穏の中にいることさえ意識せずに、日常の営みを繰り広げている。
 しかし井土は市中金融に身を浸しているが故に、手形に付きまとう犯罪行為に直面するのだ。
 普通の生活を営む人間が目の当たりにできない事件も、井土の眼前では繰り広げられるのだ。

 ある会社が、A社の手形を持ち込んできた。井土の会社はいつも通りの調査を行ない、問題なしとして、その手形を割り引いた。手形としてもきちんとしており、井土の会社もその手形を銀行に持ち込み、割引を行なった。
 そのようなことが何度か続いたある日、ある振り出し銀行の貸付担当の上役から、井土のもとに電話が入った。その上役が、井土の学校の先輩であったためだ。
 「井土、この振り出し会社のA社は、うちの銀行の当座には、登録がないぞ!」
 「えっ! 本当ですか?」
 「俺がお前に嘘をついても、一文の得にもならないだろう。間違いなく本当のことだ。」

 驚いた井土は、慌てて客に電話を入れた。厳しく問い詰めると、客は観念して、事情を話し始めた。
 事情とは、次のようなものであった。
 客の会社の専務と銀行の上層の人間とが結託して、手形を勝手に振り出していたというのだ。手形に記載されている当座の番号も、客の会社のものではなく、手形の用紙も正式なものではない。しかし何故か銀行が目をつぶり、落としていたというのだ。
 客はそこまで事情を話すと、井土の会社にやってきて「申し訳ありません」と頭を擦り付けるようにして謝り、話を続けた。
 「これまでズーッと専務に頼み込まれ、手形をお宅に持ち込んでいました。割り引いてもらって手にした現金は、全て専務に渡していました。専務からは手数料というか、小遣いとして幾ばくかの金を貰っていました。“犯罪だ”と糾弾されても仕方ありません。本当に申し訳ありませんでした。」

 ところが驚くべきことに、その会社は現在も存在している、と井土は語る。手形にかかわる一連の犯罪行為については、その会社・銀行にかかわることはともに秘密裏に処理され、闇に葬り去られたというのだ。
 これらが白日の下に晒されていれば、銀行も巻き込んだ一大経済スキャンダルとなっていたことは確実だ。

 井土が、日本経済の裏街道をも見通すことができる立場にある、市中金融の人間であったればこそ知り得た、経済スキャンダルであり、犯罪行為である。市中の企業ばかりか、銀行でさえも犯罪に手を染めていたのだ。ほんの一部の人間による行為ではあっても、銀行は重大な経済犯罪に加担していたのだ。
 銀行といえども、中小企業の悪意ある人物と波長が合えば、重大な犯罪に走ることがあることを、経営者は肝に銘じておかなければならない。こうした犯罪やスキャンダルの種は、どこにでも転がっているのである。
 手形を扱うに際しては、最大の慎重さでもってあたらなければならない。今更言うまでもないことだが、そうした心積もりではあっても、人の心の中に潜む悪の囁きには、奥深いものがあるのだ。これには、単なる性悪説だけでは説明できない面もある。そこにこそ、人間の罪深さと、ドラマが存在するのだ。

つづく



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