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【人生のエナジーは限りなく】 町金融の世界に生きた男の述懐(12)
連載コラム
2008年9月17日 10:18
井土 芳雄 [いづち・よしお]
1947年7月25日 福岡生まれ
福岡大学 法学部卒業
手形割引を主業務とする市中金融業に勤務
退職後、現在はフリーランスの身となる

市中金融業が握らされているリスク

 井土は、市中金融にその身を置いていたが故に、様々な事件に遭遇し、種々の中小企業の倒産をもまた、目の当たりにしてきた。
 こんなこともあった。前の週まで営業をしていた会社の従業員が月曜日に出社してみると、シャッターが閉まっており、そこには一枚の張り紙が貼ってあるだけ。井土がその会社に赴き、事務所を改めてみると、当然のことながら中は雑然としており、社長は行方不明。2階の社長室に上がってみると、驚くことに小型のサウナルームが設置してある…。
 事業が軌道に乗り、調子がよくなると、経営者はそこに胡坐をかき、天狗になってしまう。「飲む」「打つ」「買う」となるわけだ。やがて経営者は自分のことだけを考え、従業員のことなど一顧だにしなくなる。
 そんな会社は、そのほとんどが破綻へと向かってしまうものだ。従業員は可哀そうだが、こうした会社が倒産するのは、ある面、仕方のないことなのかもしれない。井土はそう思う。

 しかし、そのおかげで不渡りを掴まされるのは、市中金融業ということになるのだ。
 最近の経営者の中には、経営が危うくなると売掛金をかき集め、奥さん・家族とともにドロンしてしまう者が少なくない。その無責任さを目にするにつけ、「企業は人なり」という言葉が虚しく聞こえてしまう。そういう社長と社員との間の信頼関係など、紙切れ一枚ほどの薄っぺらなものでしかない。
 社員と社長が深い絆で結ばれ、相互の信頼関係が強固であれば、例え小さな会社であっても、小規模な事業しか営んでいなくても、やがて日々の努力が実を結び、発展して行くものだ。井土はそういう事例を幾つも見てきた。
 あまりに派手に、大きく手を拡げ過ぎると、不安定な要素ばかりが増えてくる。井土の会社の社長は、事あるごとに言っていたものだ。「扇子と屏風は広げ過ぎると倒れてしまう」と。

 大手の金融会社、特に消費者金融は、近年、大幅に業績を伸ばしてきている。かねてより社会的、経済的信用を得ようとして、株式を上場している。ところが、株式を上場すれば、株主へ配当を出さなければならなくなる。ために、経営陣は、半年決算をせざるを得なくなる。半年の事業見通しを立て、月毎の売上げ目標を設定するのだ。すると、「何月にはこれだけの貸付けを行ない、これだけの収益を上げろ」と、事業所に厳しいノルマを押し付けることになる。当然、ノルマは死守すべきものとなる。そこで起きてしまうのが、無理な貸付けだ。
 こうした図式が様々に表面化し、社会問題となってきたのは周知の通りである。借り手側の市民を苦しめていたものが、いつしか業者自らの首を絞める結果となっていたのだ。まさしく“しっぺ返し”を受けてしまうわけだ。
 対して、手形の場合には一見客が多い。手形の客は、長続きしないことがほとんどだ。市中金融における融資は短命であるのが常で、手形に例えて言えば、いわゆる「単名手形」である。だからこそ、手形割引では、振出し企業に関する信用調査が重要となる。シリーズの始めでも紹介したが、手形に関しては、いわゆる“相”が重要になるのだが、現在では調査方法も、様変わりを見せている。

 今では情報センターが整備されていて、様々な情報を多量に収集することが可能になった。ところが井土は、情報が多くなりすぎたことで、かえって情報に惑わされるようになった、と感じている。それ故に、業者が不渡りを掴まされる結果を招くケースが増えているようだ、とも。
 情報センターがなかった時代には、業者は手形の“相”を見てから、客と電話で話していたという。そして、手形の占有と現場について尋ねてから勘を働かせ、手形の安全について、判断していたとのこと。そうした手段・手法を講じていた時の方が、かえって不渡りを掴まされる割合は少なかった、と井土は感じている。

 このように、市中金融業は事業を拡大するうえにおいても、多大なリスクに晒されているのだ。

つづく


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