ネットアイビーニュース

NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

連載コラム

【人生のエナジーは限りなく】 町金融の世界に生きた男の述懐(13)
連載コラム
2008年9月18日 10:05
井土 芳雄 [いづち・よしお]
1947年7月25日 福岡生まれ
福岡大学 法学部卒業
手形割引を主業務とする市中金融業に勤務
退職後、現在はフリーランスの身となる

いま改めて見る金融環境

 中小企業の経営者は、日々、資金繰りを考え、様々に手段を講じている。井土が勤務していた市中金融業の会社にも、企業経営者が頻繁に出入りしていた。
 資金繰りが順調に行っている時には、融資の残高について計算することができる。また、支払いについても、想定の範囲内で対処しやすい面がある。ところが、仕事の締めと、請求の締めにズレが生じる場合がある。資金繰りにそれなりの余裕があれば、このズレは吸収できる。しかし、余裕がなければ、一時的ではあっても経営危機を招いてしまうことになる。したがって、何らかの方法によって、そのズレを埋めなければならないことになる。
 その場合、1ヶ月後には手形が入り、銀行なり市中金融で手形を割り引き、現金を手にすることができるなどということがあると、経営者の中には、安易に商工ローンに手をつけてしまうケースがある。商工ローンも簡単に100万、200万円と貸し付けを行なう。しかし、そこに商工ローンが仕掛ける罠があるのだ。仕掛けは、後になって判明するものだ。
 仕掛けとは、如何なるものか。つまり商工ローン側は、貸付元金を借り手から回収しようとは、微塵も考えていないのだ。連帯保証人から回収することを、目論んでいるのである。
 貸付けに際しては、「3年間は利息だけ支払ってくれれば良いですよ」と甘言を弄しておいて、一覧払手形を差し出させる。そして、商工ローンの方で、いつでも期日を書き込めるようにしておくのだ。1ヶ月後、経営者が手形を手にしたとしても、商工ローンから借りた元金を、返済する当てなどはない。ただひたすら金利を払い続け、気が付いた時には経営が圧迫されており、首を締められるような思いをすることになる。それだけが原因ではないだろうが、最後には結局、破綻してしまうのだ。
 商工ローンは、次には連帯保証人に対して返済を詰め寄り、元金を回収して行くのである。グレーゾーンを含んだ金利で充分な利潤を得るばかりでなく、元金もしっかり回収して、資金を確保する。したがって、欠損を生じることは、極めて稀である。
 井土は、そうした商工ローンの手法は卑劣ではあっても、上手いやり方だ、と見ていた。同様の手法は、関東・関西で盛んに見られた。

 さる京都の金融業者は、上記の手法でもって全国に勇名を轟かせたが、そのやり口に対しては、同業者も眉をひそめるほどであった。当初は暴力団を用いることによって不法な回収を行ない、厚顔無恥よろしく業務を進めていた。しかし、利益が積み重なってくると、暴力団への顧問料の支払いを渋るようになり、次には、世間の批判に応えて反省を示すかのごとく、暴力団とは手を切り、警察OBと手を組んだのであった。とにかく、その強引なやり口は、業界でも非難を浴びていた。
 一方、商工ファンドは、すべての回収事故に対し、訴訟で対応していた。笑い話のようだが、ある時期の東京地方裁判所には、商工ファンドの訴訟状しかない、という状況もあったという。
 合法であるとはいえ、その異常さは世間の耳目を集め、同業者ですら、首をかしげざるを得ないほどであった。
 このように、両者のような際立ったやり方は結局、業界全体の足を引っ張るとの見方が高まり、自浄作用が働いたのであろう、最近では鳴りを潜めている。

 井土は、これら一連のことを勘案したうえで、金融業界の在り方について、一つの考えを持っている。それは、金利を自由化するということである。銀行金利は本来、許容範囲内であれば、各行の自由裁量によって設定できるはずである。ところが、実際の金利は横並びで、利用者のことを考えたサービスが行なわれているとは言いがたい。金利を自由化すれば、金利を高く設定する傾向が強まり、危険を伴うケースが増えると考えられるかもしれない。しかし、乱暴なことをすれば、誰も見向きもしなくなる。むしろ各行は、顧客を呼び込むため、顧客にとって最適な金利を真剣に考え、のみならず、顧客に対する様々な利便性の提供を図ろうとするはずだ。利用者の利益を無視をするような銀行は、米国のように、どんどん倒産すればよい。金利自由化によって、利用者主体の金融環境ができるはずだ。

 日本では、現今の金融環境と業界の在り方を問い直し、サービスについても再考すべき時期が、到来しているのではなかろうか。そう考る、井土である。

つづく


※記事へのご意見はこちら

連載コラム一覧
連載コラム
2012年11月27日 07:00
連載コラム
2012年11月26日 15:53
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル