米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻による影響が時間を追うごとに顕在化しているなか、9月末に中間決算を迎える金融機関各社に対する破綻リスクの高まりとともに各方面への波紋が懸念されている。
地銀29行の焦げ付きの意味
9月16日、リーマン・ブラザーズグループに対する債券を保有していた地方銀行は29社、そのなかで最も保有していたのは和歌山県の指定金融機関の紀陽銀行であることが判明した。同社はリーマンが発行する円建て普通社債を71憶4,900万円保有しており、この債券が債務不履行となれば、前期連結の経常利益が約106億円の紀陽ホールディングスの決算への影響は避けられないものとなる。
また、世界的な金融不安からの株価下落に加えて、地方銀行のリーマン関連債券は分かっているだけでも約573億円あることから、担保の保全や引当が十分でない地銀は今後、損失を計上していく見通しとなる。
今回の破綻劇は、日銀による超低金利政策が続くなかで、余剰資金を抱える銀行、とくに地方銀行にとっては、リーマン・ブラザーズのような高格付け発行体による無担保債券は利回りが高く、魅力のある運用先となっていたことが事態の深刻化を招いた。とくに、外国籍企業の発行というリスクの代わりに高利回りを得られたサムライ債(円建て債券)は、主要な投資家であった地銀に、投資を手控えさせるのに十分な損失を与えた。もともと保守的な投資手法を好む地銀などは、今回の債務不履行により、今後は相当慎重な投資態度を取ることが予想され、ひいては地場産業の隅々までもが未曾有の信用収縮に突入していくことを覚悟しておくべきだろう。
疑心暗鬼の短期金融市場
短期金融市場においては、すでにドル資金の出し手がまったく存在しないため、ドル調達圧力が高まっている。通常は2%程度のドル翌日物の調達金利が、今回の金融危機が起きてから一気に5%程度にまではね上がった。米国のサブプライムローン問題での損失が深刻な米欧金融機関は、ところによっては10%台という場合もある。
9月17日、日本銀行は政策委員会・金融政策決定会合で、次回の金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、無担保コールレート(オーバーナイト物)が0.5%前後で推移するよう促すことを全員一致で決定した。これは、リーマン破綻を受けて外資系銀行が資金調達困難となっている短期金融市場において、短期金利が過度に上昇するのを防ぐことが目的とされ、同日に2兆円の資金供給も実施している。1回の資金供給量としては、2006年3月に量的緩和政策を解除して以降、最大の額となる。
資金の調達コストが急騰することで、金融機関は資金繰りでのリスクが一段と高くなる。この状況で9月末の中間決算期を迎えれば、上半期での不動産や金融商品などの減損処理によって、資金繰りが著しく悪化する金融機関も出てくるだろう。とくに、リーマン破綻で債券を抱えている資本力の弱い地方の銀行や信金などでは、すでに破綻リスクを内包しているとも言える。
リーマン破綻の3日前には、信金中金が「景気減速が鮮明になってきて、今後、地方の中小企業の倒産などが相次いだ場合、不良債権処理などで個々の信金の健全性が損なわれる恐れがある」として、2,200億円の増資を発表している。
終わらない後片付け
リーマン破綻に振り回されているのは金融機関だけではない。リーマン・ブラザーズグループの不動産担保融資の会社が、負債総額3,845億円で東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請しているが、不動産ローン会社なだけに、その貸出には確実に回収圧力がかかるであろう。また、不動産ローンを借り換えすることで元本を返済する仕組みの商業用不動産担保証券(CMBS)の組成や時価の提供をしていたリーマンの不在により、時価も詳細も分からない商業用不動産担保証券が市場に大量に取り残されていることも問題となっている。このほか、ライブドアのニッポン放送買収資金800億円の引受先がリーマンであったように、各事業会社への大型投資や融資案件について協議中であったものはすべて白紙に戻った。さらに言えば、日本の政府短期国債の落札代金1,210億円の未払いなどもある。
現金に準じる最も安全な金融商品のひとつとされる米国のMMF(マネー・マーケット・ファンド)で、破綻した米証券リーマン・ブラザーズの社債に投資して損失を出し、元本割れしたファンドが発生していることも判明している。通常MMFは、元本割れが起こらないように短期の金融市場で満期1週間や1カ月の証券で運用される、流動性と安全性に優れた商品とされる。今回のMMF元本割れは01年11月末にアメリカのエネルギー商社エンロンの信用不安が高まったとき以来で、リーマン破綻の衝撃はMMFを保有する家庭を直撃する。
リーマン破綻の余波は、国家財政、金融機関、事業会社、個人それぞれにまで及ぶ、空前絶後の破綻劇となり、これらがもたらす信用収縮の波が上空から地上へ降り注がれることは間違いない。
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