(株)レックス・ホールディングス(東京・港)は、傘下のコンビニエンスストアの「am/pm」を売却する。焼肉チェーン「牛角」を核に、コンビニのam/pm、高級食品スーパー「成城石井」を買収して“流通のソニー”を目指した西山知義会長(42)の野望は槿花一朝の夢で終わった。
呪われた六本木ヒルズ族
思えば、六本木ヒルズ族が時代の寵児として脚光を浴びるきっかけになったのは、2004年2月にサイバーエージェントの藤田晋(35)と女優・奥菜恵の結婚式だった。このとき、ライブドアの堀江貴文(35)、テイクアンドギヴ・ニーズの野尻佳孝(36)、レインズインターナショナル(現レックス・ホールディングス〔以下、レックス〕)の西山知義といったヒルズ族の面々がハンドベル演奏を披露した。
いまや六本木ヒルズは呪われた存在に化した。堀江貴文と旧村上ファンドの村上世彰は刑事被告人に。折口雅博(47)はグッドウィル・グループを追われ、リーマン・ブラザーズ証券は破綻。六本木ヒルズから撤退したレックスは経営危機に陥った。
西山知義は1966年3月、東京で生まれた。父親が経営していた宅地造成会社が、オイルショックの時に倒産。家も失った。西山は「自分が大人になったら会社をやって、見返してやりたい」と思ったという。
日本大学法学部を中退して不動産会社に就職。そこで経験を積んで87年不動産賃貸会社を始めた。しかし、事業は甘くなかった。600万円の横領事件が起きた。警察の調べで、社員全員が横領に関わっていた。社員9人中6人が退社し、会社は倒産寸前に追い込まれた。サラ金から借金し、会社の社長という身分を隠し、週3日マクドナルドでアルバイトした。
その後も不動産商売は苦戦が続いた。思い切って新しい商売を始めようと外食進出を計画。96年10月、東京・三軒茶屋に「焼肉市場 七輪」をオープン。「牛角」の第1号店だ。フランチャイズ(FC)支援会社のベンチャー・リンクにFC展開を全面委託。FC店を増やし00年12月、日本証券業協会に店頭登録(現・ジャスダック市場)。初値がついたとき、西山は涙ながらに社員と抱き合って喜んだという。
コンビニのam/pmを買収
西山がベンチャー起業家として注目を集めたのは04年。7月に中堅コンビニのam/pmを、10月に高級スーパーの成城石井を買収して驚かせた。BSE(牛海綿状脳症)騒動で焼肉ブームが消え、牛角の業績拡大が鈍ったため多角化に軸足を移した。
am/pmは90年4月、旧共同石油(現・新日鉱ホールディングス〔以下、新日鉱HD〕)の子会社エーエム・ピーエム・ジャパンとして設立。ガソリンスタンド併設型のコンビニとして拡大を進めたが、90年代半ばに行き詰まり、都心部への集中出店に切り替えた。
しかし、赤字経営が続き、親会社の新日鉱HDはコンビニから撤退。am/pmの売却に動いた。この時、総合商社やコンビニの大手に売却を打診したが、売却値が高すぎて断わられた。買収の手をあげたのが、カネ回りのいい六本木ヒルズ族の西山だった。
レインズインターナショナルは、エーエム・ピーエム・ジャパンが実施する171億円の増資を引き受け、発行済み株式数の62.6%を取得。連結子会社に組み入れた。
西山は、不採算店を外食店に転換させ、am/pmの株式を上場させると鼻息は荒かった。しかし、「こんな値段で買うとはド素人」と流通業界の反応は冷ややか。
当時、流通業界のトップは「171億円で買うのは高すぎる。利益が出ている黒字店と、マイナスの赤字店を厳密に計算すると、せいぜい20~30億円がいいところ」とあきれていた。まずは、お手並み拝見といったところだった。
つづく
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