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【人生のエナジーは限りなく】 町金融の世界に生きた男の述懐(17)
連載コラム
2008年9月25日 10:15
井土 芳雄 [いづち・よしお]
1947年7月25日 福岡生まれ
福岡大学 法学部卒業
手形割引を主業務とする市中金融業に勤務
退職後、現在はフリーランスの身となる

市中金融マンが提唱すること

 井土のように市中金融業に身を置いていると、様々な企業活動や経済活動を見ることになる。そしてそこからは、一つの識見が生まれてくる。
 井土は、仕事に良いも悪いもない、と考えてはいるが、労働に対する対価や評価はバラバラで、適正さを欠いていることが多いのではないか、と感じている。
 物件や商品を右から左に動かすだけで、大きな報酬を手にしている人間もいれば、朝早くから夜遅くまで、必死に汗を流して働いても、大した報酬を手にすることができずにいる人間もいる。
 確かに、現今は格差社会であり、能力や業務に対する着眼点の違いによって、報酬に差が生まれるのも仕方のないことだ、と是認する向きもある。日本国民に大なる人気がある、さる首相経験者は、在任時に格差社会を認め、エスカレートさせるような施策を採っていた。しかし、生じた格差はあまりにもひど過ぎる、ワーキング・プアも増えつつある、と井土は感じている。

 市中金融にいると、様々な企業や経済の動向が見えてくる。自らの業界の栄枯盛衰もまた、しかりである。そうした中、経営者の着眼力如何によって、企業間の力に差が生まれてくる様子が、井土の眼前で繰り広げられてきた。
 井土らの元に足繁く通って手形割引を繰り返し、苦しいながらも懸命の努力を続ける会社も、少なくなかった。結果、労多くして、努力を実らせることができなかった会社もあれば、息を吹き返し、新たな出発と発展を迎えた会社もある。
 資本主義経済下にある日本であれば、誰であれ、日々繰り広げられている経済活動について、情報を得ることはできる。しかし、井土のように、現実と間近に接している者であれば、市井の人間の理解力を超えた感想や感慨を抱いたとしても、何の不思議もない。
 井土だからこそ見てきた経済劇や、絡み合う人間ドラマ…。一般人の尋常な感性でもって、理解し得るものではないだろう。

 一人の市中金融マンとして、その生涯を送ってきた井土である。その井土が経験してきたことや、出来事に対する視点の置き方・見方を知ることは、経済を知る上で、大きな参考となる。読者諸兄のみならず、筆者にとっても勿論のことであるし、経営者であれば、なおさらのことであろう。市中金融業の実際の活動について知り、理解を深めて行くことができれば、自らの経営術にとっても、大きな参考となるだろう。

 様々な経済ドラマを、新聞や雑誌で傍観者的に見るのではなく、我が身に置き換えながら、現実的に考察する力を養う必要がある。これからの時代には、そうした要素が、非常に重要になってくる。
 当事者の営みや、そこに絡む人々の反応と動き。そして、様々なケースにおける銀行の対応。そこまでをリアルに見つめることができれば、頭でっかちの経済行動論が、実践力を伴った経済論へと昇華して行く。理論・理屈でしかなかったものが、現実の色合いを帯びるようになり、行動力豊かな実力派経営者へと育って行くのだ。経験の中で、井土はそのように理解してきた。

 物事は、理論だけでは決して理解することができない。現場が重要なのだと、井土は考えてきた。
 だから井土は、退職の日まで、顧客の元に足を運んでいた。来社する顧客からは、本音は見えてこない。相手の城に入ると、自然に身構えてしまう。それが、人の常だからだ。
 顧客の会社、つまり、相手の城に赴き、その懐に身を置いてこそ、顧客の本音も、少しずつ漏れ出してくる。そうしてはじめて、顧客の会社の本質が、見えてくるのである。
市中金融の世界で生きてきた井土が提唱する、「理論ではなく、現場」という言葉の本質は、ここにある。

つづく


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