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【人生のエナジーは限りなく】 町金融の世界に生きた男の述懐(18)
連載コラム
2008年9月26日 09:41
井土 芳雄 [いづち・よしお]
1947年7月25日 福岡生まれ
福岡大学 法学部卒業
手形割引を主業務とする市中金融業に勤務
退職後、現在はフリーランスの身となる

市中金融業を正面から見据える

 井土は改めて語り始めた。
 「中小企業経営者は、私達、市中金融業と上手に付き合って欲しい、と心より願っています。我々を上手に使って資金を回転させ、業績を上げる。そして、最終的に銀行との付き合いが確立すれば、企業として周囲に認められるようになります。銀行に手形割引枠ができれば、より良い資金回転と資金繰りが可能になります。それでも、どうしても割引枠をオーバーすることがあります。そういう時にはまた、我々を上手に活用すれば良いのです。」
 こうも言った。
 「銀行に手形割引枠ができれば、ボロ手形は銀行枠で割り引き、優良手形は我々のところで割り引く。それが、上手な手形割引の方法です。つまり、リスクと利息を上手に使い分けるのです。我々市中金融業のコマーシャルポイントは、まさにここにあるのですが、この方法を活用すれば、資金繰りは圧倒的に改善されるはずです。」

 今、手形割引を主業務とする市中金融業者が、日本全国に果たして何社存在するかは不明である。もし、その多くが手形割引業務をやめてしまえば、日本経済を底堅く支える中小企業の多くは、バタバタと倒産することになる。結果、日本経済は根底から揺らぎ始め、遂には破綻を来しかねない。何かと胡散臭い目で見られがちな市中金融業ではあるが、その存在意義には、大きなものがある。この点については改めて見直し、認識し直されなければならないだろう。

 その証左として、面白いエピソードがある。ある日、井土の元に、一本の電話が入った。
 「井土さん、ここにある手形は良か手形ばってん、井土さんのところで割っちゃらんね。うちじゃ間に合わんて客が言いよるけん、その客ば紹介するけん、井土さんのところで良うしてやって欲しいっちゃけど、良かろうか?」
 「そんなお客様をご紹介していただけるとは、本当にありがたいお話です。私どもの会社で一生懸命お世話させていただきます。」
 井土は顔の見えない、電話の向こうの相手に向かって、頭を下げた。電話の相手とは、誰であろうか。そう、読者諸兄ご推察の通り、銀行である。なんと、銀行が手形割引の客を紹介してくるのだ。このエピソードからしても、市中金融業の存在意義の重さが判るだろう。井土は、銀行の紹介客ということで、その顧客に対しては、特例処置で臨むことにした。社長の許可を得たうえで、特別レートで対応したのである。お陰で、その顧客とは長い付き合いになったという。

 市中金融は、銀行とはあくまでも違う。取り扱い利息、即ち手形割引料も、全く違う。それよりも何よりも、大きく違うことがある。市中金融業者は銀行のように、紋付き袴を着て、肩肘を張ったような態度で顧客と接しているわけではない。市中金融が、銀行と同じようなスタンスで顧客に接すれば、顧客は身構えてしまう。勿論、顧客が本音を漏らすことはない。これでは、顧客やその会社の本質は、見えてこない。
 市中金融業だからこそ、客の本音を引き出し、企業としての本質を見極めなければならない。そして、より親密な関係と相互の信頼を築き上げる必要がある。そうでなければ、有価証券の売買をとり行なうことはできない。顧客の立場にできるだけ近づき、経営業績向上のための、手助けと支援をする。そうした意識を持っていなければ、市中金融業は、その存在意義を失う。

 井土の38年に亘る市中金融での歩みは、顧客支援を具現するための、休みなき一歩の積み重ねであった。
 市中金融、いわゆる「町金融」と言われる業界にいたからこそ井土は、一般人が知ることのできないような歩みを、繰り広げてきたのだ。一人の男の生き様が、そこにはあった。例え「町金」と蔑まれようとも、有価証券の売買業者として、人々の眼前で胸を張り、大地を踏みしめていたのだ。

 井土は強調する。
 「どうか、斜めからではなく、真正面から市中金融を見すえ、理解して欲しい。そして、日々の業務に地道に取り組む一企業として、みつめて欲しい。」

つづく


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