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【人生のエナジーは限りなく】 町金融の世界に生きた男の述懐(19)
連載コラム
2008年9月29日 11:18
井土 芳雄 [いづち・よしお]
1947年7月25日 福岡生まれ
福岡大学 法学部卒業
手形割引を主業務とする市中金融業に勤務
退職後、現在はフリーランスの身となる

市中金融業、そこで見るもの

 私企業には二種類ある。それは社長に二通りの存在があるからだ。
一つは上場大企業の社長で、サラリーマンとして入社し、年月を経ていく中で出世し、その集大成として社長になる。このような社長はサラリーマン社長として一定の期間、大きな損失をもたらすことなく、大過なく企業を牽引していくことができれば、退職金を手にして後進に道を譲る。彼らは自企業の銀行借入に際し、個人保証を負うことはない。
 もう一方の社長はオーナー社長だ。事業を興し、社業を発展させ、大企業になっても、銀行借入に関しては個人保証に判を捺し、ある時には社長の夫人さえも個人保証を背負う。この場合、企業が破綻すれば、自らの全財産をなげうって、保証に応えなければならない。オーナー社長は、経営にあたってはよくよくの覚悟をもって、自らの全人生を、自らが興した事業に賭けなければならない。血の汗を流しながら、企業を一つの形に作り上げて行くのだ。それだけの覚悟と決意を持って事業を牽引し、遂行していくのが創業者であり、オーナー社長なのである。

 こうした二種類の社長のうち、後者型の社長を数多く見て来た井土には、一つの事業経営の在り方が見えている。それは、事業が次代に承継される際に、明確に見えてくる。新しい社長が、優れた能力を持った人物であったとしても、必ずしもずば抜けた力量を持つ経営者となれるわけではない、ということだ。二代目が創業者の子息であれば、そのことは、より際立ってくる。だからこそ、世界に冠たるSONYもHONDAも、創業者の子息は事業を承継していない。
 井土は、企業経営にかける経営者の意識のすさまじさ、生き様を見ることができたことに、深く感謝している。市中金融業に身を浸していたからこそ、自分の生活は勿論、なによりも企業経営を優先し、全身全霊を賭す人間の姿に接することができたのだ。

 市中金融業で業務を遂行していると、様々な中小企業経営者の顔を見ることになる。
 血色の良い顔、艶やかな輝く顔、精気に満ち溢れた顔、真正面から見すえて来る瞳、力のこもった言葉が溢れ出る口元。逆に、血の気の失せた顔、人の顔を見ようとしない精気の失せた眼、だらしなく力を失った口元…。
 “気”に溢れた顔と、“気”が失せた顔、井土はその双方を見てきた。同じ生き物なのに、人はここまで違う顔を見せるものなのか? そうした思いを抱きながら、人と接してきたのであった。
 人は、職業によって様々な顔を持つ。そこに人の人としての面白さがあるのだろう、とも感じる。それを知ることができたのは、市中金融業にいたからこそであり、市井の人々が見ることができないものを身近に見ることができたのだ、と井土は思う。

 それにしても市中金融業とは、誤解されやすい稼業だとも思う。それは、手形割引はその利益が明確、ということだ。100万円の手形の利率が3%であれば、3万円の利益、7.5%であれば7万5,000円、とはっきりしている。ところが、商品販売となると、その利益は不明となる。仮に、100円ショップで100円のコップが販売されていたとしても、その仕入価格は判らない。その原価は3円かもしれないし、38円かもしれない。したがって、利益も見えてこない。しかし手形割引における利潤は、誰の目にも明らかだ。

 手形割引は、人が思うほど利を稼げる商売ではない。割引資金も、潤沢な準備が必要になる。手形割引業者も仕入れた手形を期日まで保有し、滞りなく回収できれば、利益はそれなりになる。しかし、業者がそれだけの回転資金を持つことは不可能で、資金繰りのためには、仕入れた手形は銀行で再割引せざるを得ない。
 手形割引業者は、それだけ厳しい有価証券売買業を遂行しているのだ。
 ところが金融庁は、これら市中金融業者が行なう手形割引を有価証券売買業とは認めておらず、あくまで貸金業としてしか見ていない。

 市中金融業にまとわりつく、悲話と言っていい。

(次回最終回)



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