失墜する「市長」の信用、展開される市民無視のドロドロ劇

　人工島へのこども病院移転事業は、こどもの命、患者家族の苦労や不安、人工島に対する市民感情、市長公約の重要性といった全ての優先事項を無視して、利権のための装置と化した。情報通り、県が病院建設への協力と引きかえに、人工島内市有地の格安提供を迫り、3点セットの建設を促進すれば、その全貌はよりはっきりしてくる。

　こども病院、巨大コンベンションセンター、県立美術館や大学と、箱モノのオンパレードである。これに都市高速延伸など、アクセス整備の土木工事が加わる。人工島は総額で軽く1,000億円を超える、「公共事業がひしめく利権の島」の色彩が強くなる。税金で余った土地の穴埋めをするという最悪のシナリオが、現実となり始めているのだ。県庁主導の3点セット「コンベンションセンター・県立美術館・大学」が人工島に建設され、市有地が「格安」で提供されるということは、人工島事業失敗の尻拭いを、市民の税金でやることに等しい。かつての福岡市（正確に言うと、吉田宏市長以前の歴代市長）なら、断っていた話だろう。何かを担保に取られた形で、政令市福岡が「県」の言いなりになるということはなかったことなのだ。
　
　実は、県立美術館や旧県立女子大学については、山崎市政時代にも人工島への誘致を企画したことがあったとされる。特に当時の県立女子大学については、県に移転時の予算について検討してもらい、結果、人工島の土地の価格が高く採算に合わないとして見送られた経緯もあるという。埋め立て費用の回収額が予定より下回れば、それだけ市民の尻拭い額が増加することになる。土地は売りたいが「叩き売りはしない」という信念はあったということらしい。そうした気概さえ、今の市役所にはないということになる。
　福岡市の威信は低下する一方である。

　銀行団との約束を守るため｢はじめに人工島ありき｣を貫き通す福岡市。事業を見直すと称して行なった｢検証・検討｣は人工島事業推進の結論を導き出すための作業であった。つまり市民を騙したということだ。また、こども病院移転については、多くの人が望んだ「現地建て替え」を否定するところからスタートし、起債協議のため総務省に提出した文書は、移転地を｢人工島｣と想定していた。これも市民を騙したことに他ならない。

　これらの事実は、弊社市政取材班が情報公開請求によって入手した文書から、全貌が明らかとなっている。肝心の、博多港開発と福銀を中心とする地元金融機関との融資契約書に｢間違い｣が見つかり、取材班の指摘で｢訂正｣に追い込まれたことは、事業自体がいかにいい加減に進められているかを証明するものであった。しかし、これだけの「重大な間違い」を犯しながら誰も責任を問われていない。

　「契約書の間違い」問題に象徴されるように、無責任体制の中で市政が進められているのである。張本人は吉田宏福岡市長であろう。市長選挙の折には人工島事業をはじめとする大型開発優先の市政見直しを訴え、｢身の丈にあった市政｣だの｢こども病院移転を見直す｣といった、あたかも｢開発行政｣にストップをかけるが如き言動で票を集め、当選した。目玉となる公約の大半を反故にしておいて、市民に謝罪するどころか、｢公約違反とは思わない｣と開き直る。これもまた、「市民を騙した」ことに変わりない。信用が失墜したことは明らかだが、政令市福岡の市長として、史上最低のレベルだとの指摘も出ている。リコールの可能性さえ浮上しているが、それが現実のものとなれば、政令市福岡の威信は益々傷つくことになる。なによりも「政令市福岡の市長の信用」が失墜することは、市民の不幸につながることを自覚しなければならない。節操のない吉田市政の下、政令市福岡の威信が低下し「県」の力が強まる。その証左として、早くも「市の利権に県議が介入しはじめた」と警鐘を鳴らす声も聞かれる。いずれにしても市民無視のドロドロ劇に変わりはない。