小笠原氏の評価
見えなかったものが明らかになっていくなか、小笠原氏への疑問も浮上している。大阪営業所の中原孝裕所長は会社更生法の説明会に出席、そして今回の説明会にも出席した。債権者から、その点についての質問が飛んだが「会議の直前に"とにかく座って謝罪してくれ"というので、わけも分からず座った。寝返ったわけではない」という。
6月29日の臨時取締役会の際、中原氏は大阪のモデルルームから電話で参加した。代表選任に関しては、電話が聞き取りにくく「分かりません」と答えたとされ、これが棄権扱いとなり、小笠原氏の新代表選任について賛成2、反対1、棄権1という結果につながった。その後、中原氏の反対という意思が明らかとなり、小笠原氏は過半数の同意を得ていなかったことが判明、かなり強引な手法だったという印象は免れない。事実、小笠原氏自身も「手続きに不備があったことは認める」としているが、もし中原氏が強く反対した場合、「そのまま辞表を提出するつもりだった」とも話している。周到な準備の一方で、強引とも言える手法で会社更生法まで持っていったのも事実だ。
その小笠原氏に関して、会社更生法の申請を6月30日の銀行が閉まる3時ギリギリまで遅らせようとしていた事実が、債権者によって明らかにされた。この間、現金を拘束されない口座に移したうえで、可能な限り住民に預かり金を返済するという動きをしていたが、早川氏が銀行にリークしたことで借入のある銀行の預金がロックされてしまい、返金できたのはわずかに2名であるという。小笠原氏にこの事実を確認したところ、当初は否定していたが、最終的に「たしかにその通りである」と認めた。裁判所から返金命令される可能性はあったが、リスクを承知で行なったという。これが事実であれば、一般債権者にとっては背信行為となり、小笠原氏への評価は分かれる。なぜ、その秘密を後々まで住民に秘してきたのか、申請理由は本当に少しでも多くの配当をしたかったからなのかは不明であるが、いずれにせよ、監査法人の人間として、代表解任、会社更正を巡る攻防といったキャリアを積んだことは間違いない。
クーデターはどんな企業でも起き得る
今回の騒動は、中小企業に大きな教訓を残した。早川氏は後に復帰するものの、実質創業者で約80%の株を保有する圧倒的なワンマン社長であったにもかかわらず、一度は解任されてしまった。しかも、数カ月前に呼び寄せた役員によってである。20年近く企業経営を続け、その権限を強めながら反対する勢力を排除していくなか、社会的な正義を失ってしまった結果のクーデターであった。
そもそも中小企業はワンマン経営でなければ成り立たないところが多い。リーダーのカリスマが顧客満足になり、その結果として会社の利益にもつながるが、インベストは経営者のカリスマも対外的信用も失ってしまった。契約や支払をめぐり、ゼネコンとトラブルになっていただけでなく、インベストサービスが管理する物件のトラブル処理に誠意を欠き、自社マンション管理を他社にさらわれたという内部告発もあった。これまで、安易な首切りで乗り切れていたし、ほとんどの株を保有しているという油断もあったのかもしれないが、顧客無視の姿勢、多額の役員報酬を得ているという事実などが、早川氏を追い詰めていった。隆々とした大企業ではなく、中小企業で、しかも資金繰りに詰まっていく最中でもクーデターは起きる。こういうときこそ、専横経営の反動は大きい。
また、取締役1名が有する議決権が、時に強大な力を発揮することも証明され、その気配を読めなかったことも騒動の一因であろう。早川氏がクーデターの動きを事前に察知していれば、早くに中原氏を囲い込むことは可能だったはずだ。社内、とりわけ取締役は何を考えているか掴んでおくべきだった。
小笠原氏サイドも、突然の政権奪取は見事だったが、早川氏の逆襲は意外だったに違いない。先の取締役会の議事進行のほかにも、早川氏から欠席裁判と言われてしかるべき材料を与えてしまった。早川氏が更正法取り下げに自信を持った感は否めない。株を持っていないだけに、武器は取締役としての議決権、クーデター成功には取締役の囲い込みが必須であった。離職率の高い企業において、中原氏が長く早川氏のそばを離れなかったことを考えるとリスクは高いが、それでも小笠原氏は会社の状況や債権者への思いなどを中原氏に伝えておくべきだった。そのうえで、中原氏が早川氏につくということであれば、もともと負け戦だったことになる。小笠原氏は、早川氏が裁判所に取り下げを申し立てた時点で、更正法の維持は困難になったとの認識を見せているが、すべてにおいて批判されない手続きを経ていれば、裁判所の判断はどうだったか。結果だけ見ると良いところまでいったが、結局、三日天下ならぬ一カ月天下に終わった。
社長には、株主、取締役に攻撃材料を与えない経営が求められる。一方、クーデターを起こす側は悟られず速やかに行なえば良いが、役員、従業員、株主、金融機関、取引先のすべてが納得するような錦の御旗を掲げることが勝利の条件なのではないか。
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