生活者の立場で考え顧客の立場で行動する
行政は住民の「幸せ感」や「誇り」を前提に事業を
かつて福岡は「元気なまち」と呼ばれていました。約10年くらい前のことだと思います。ユニバーシアード福岡大会やパンパシフィック水泳選手権が開催され、博多の森球技場やキャナルシティーが次々とオープンした時期のことでした。その後大きなイベントや大型の開発もなく、このまちでは「元気」という言葉をすっかり聞かなくなりました。逆に福岡県西方沖地震やアイランドシティー問題、飲酒運転事件などで、「暗いまち」という印象が定着しかけているような気もします。
一方、まちが財務状況により評価されるケースが目立ちます。夕張の財政破綻もその一例で、多くの地方自治体は出口が見えない財政再建に手足を縛られ、新たなビジョンを描けない状況が続いています。地域間競争という言葉や、都市経営に企業経営の手法を取り入れるべきとの議論もよく耳にします。この視点はある意味では正しいと思いますが、都市の経営が企業のそれと決定的に違うのは、収支などの数字を優先させるのではなく、行政は住民の「幸せ感」や「誇り」を前提に事業を組み立てなければならないという点ではないでしょうか。
数年前に香港の雑誌が「アジアで最も住みやすい都市」と福岡市を評価しました。海と山の自然環境に恵まれた、美しく清潔な都市環境が評価の内容でした。このニュースを耳にした時に、キャナルシティーや博多の森が出来たとき時よりも、ずっと誇らしい気持ちになったのを覚えています。
経済優先ではなく人間優先のまち。競争を煽るのではなく、いろんな人たちが優しく共生できるまち。巨大で複雑な経済システムの上に存在する東京やニューヨークでは決してできない、このようなまちづくりこそがいま福岡に必要なのではないでしょうか。
おだやかで、優しいまち・福岡
地下鉄七隈線のユニバーサルデザインが世界から注目されています。車いす使用者や視覚障害者も、健常者と同じように利用できる世界で初めての交通システムです。地元では収支がさかんに取りざたされている七隈線の視察に、内外から多くの人が訪れているのです。完成当初は貧弱だったアクロス福岡の屋上緑化が見事な景観を創りだしています。
久しぶりに来福した友人が「福岡はいい街だね」と言ってくれました。経済的には非効率だと言われるこのような配慮とデザインが、人と地球に優しいまちをつくります。
そのまちで暮らす人々が心から誇れる「おだやかで、優しいまちづくり」。そこから福岡の本当の元気が見えてくるような気がします。
[プロフィール]
定村 俊満(さだむら としみつ)
株式会社ジーエータップ
代表取締役社長
1951年生まれ。北九州市出身。
FUKUOKAデザインリーグ実行委員会会長
社団法人日本サインデザイン協会副会長
アジア景観デザイン学会理事
日本デザイン学会会員
日本サイン学会会員
専門分野:コミュニケーションデザイン、環境デザイン
会社住所:福岡市博多区綱場町2-2福岡第1ビル1F
TEL:092-291-8801
URL:http://www.ga-tap.co.jp/
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