米国発の世界金融危機が邦銀に思わぬチャンスをもたらしている。圧倒的な規模と高度な金融技術にまったく太刀打ちできないでいたが、先を走っていると思われた欧米の主要金融機関が相次いで転倒し、最後尾だった邦銀が意図せず「周回遅れのトップランナー」となっている。その象徴が、三菱UFJフィナンシャル・グループによる米大手投資銀行モルガン・スタンレーへの9,000億円の大規模出資である。
欧米流がかねてからの夢
三菱は祝日(体育の日)の10月13日夜、総額90億ドルを振り込み、モルスタの優先株を取得した。当初は同14日に振り込む予定だったが、急落し続けるモルスタの株価てこ入れと信用維持のため1日早い13日に前倒しした。日本の金融機関が海外の金融機関に対して実行する出資としては過去最大規模である。
これにより、三菱はモルスタの潜在的議決権21%を取得したと発表しているが、あくまでも「潜在的」に過ぎない。今回出資した90億ドルは、(1)普通株式に転換できる権利のついた「転換型優先株」(約78億ドル)、(2)3年後、モルスタが額面の110%の金額で買い戻す権利のついた「償還型優先株」(約12億ドル)――という2種類の優先株によっており、どちらも議決権のついた普通株と異なる。つまり、議決権がない代わりに配当利回りが10%と高い。
そもそも三菱が、9月22日午後9時半に東京の日銀クラブで発表した際の資料には、「普通株式の10~20%取得する」と明記されていた。そのときの説明では、「できれば20%以上をとって、持ち分法適用会社として三菱の連結決算にモルスタの最終損益を反映させたい」「モルスタの取締役会に少なくとも1名を派遣したい」という、今振り返ればかなり強気のものだった。
みずほコーポレート銀行が米メリルリンチに、三井住友銀行が英バークレイズにそれぞれ小額出資しているが、三菱は「うちはそうした純投資はしない。やるならば戦略投資をしたい」(三菱UFJフィナンシャル・グループの大森京太副社長)と、外銀に出資する以上は具体的なビジネスに相乗効果を挙げたいという考えが強かった。三菱は伝統的な商業銀行業務から脱皮し、欧米流の投資銀行業務に事業領域を広げるのがかねてからの夢だったからだ。
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