福岡大学経済学部 教授 阿比留正弘氏
NPO法人キャリア教育サポート 理事長 高木教光氏
人口の減少とともに消費市場が縮小していく中、企業間競争は次第に激化。淘汰の波がひたひたと押し寄せ、あらゆる分野で企業存続をかけた新技術開発や新たなビジネスモデルを模索する動きが活発化している。そこに欠かせないのがベンチャーの発想だろう。
福岡大学経済学部の阿比留正弘教授は、学生ベンチャーの立ち上げを目指す実践的な講義『ベンチャー起業論』をいち早く開講。学生がインターンシップ先で問題・課題を探り、その解決策を社長に提案するというユニークな内容で、経営環境の変化に危機感を募らせる地場企業の間で注目を集めつつある。
かたや、NPО法人キャリア教育サポートの高木教光理事長は、インターンシップを通じて優秀な学生と優れた地場企業のマッチングを目指すキャリア・コンサルタントとして活発に活動する。
そんな両氏に今回、それぞれの立場からベンチャーの発想を育む上で大切な視点などについて対談していただいた。
問題・課題発見と解決能力の育成
-阿比留教授が福岡大学で『ベンチャー起業論』という講義を始めたきっかけは何だったのですか。
阿比留 今の大学の現状は、講義中に居眠りしたり、講義内容に関心を持っていない学生が多いという不満が教える側にある一方、学生の間には講義がおもしろくないから出なくていいという気分が蔓延しています。
ところが、そういう学生もクラブ活動となると目が輝き出す。大学の講義と違い、クラブ活動は全学年が年間を通じて同じ活動を繰り返すものの、1年から4年にかけて役割を変えながら参加できる仕組みになっているからだと思います。では、それと同じ仕組みを講義に取り入れたら学生たちも興味をもつのではないかと、9年前に始めたのが、『ベンチャー起業論』でした。
高木 それまでの講義との違いはどこにあるのですか。
阿比留 一番大きな違いは、大学4年間を通じて受講できるという点にあります。『ベンチャー起業論』は全部で4コマあるのですが、1年の時に2コマ、2年の時に2コマ受講しても単位が認められるようになっています。ただ、そうした履修を選択すると3、4年では単位がつきませんが、3、4年では教える立場に立つということが大きな“動機づけ”となり、継続して受講する学生は数多くいます。そこがクラブ活動と似ている点です。
3、4年時に単位がつかないとはいえ、毎週オムニバス形式で非常勤講師として招聘している民間の経営者やコンサルタントの講義のサポートやインターンシップなどで単位が取得できるカリキュラムになっていますから、『ベンチャー起業論』の関係だけで卒業に必要な単位の約8割が取得できるようになっています。その点も大きな特徴だといえるでしょう。
-講義の中身に関してはいかがですか。
阿比留 『ベンチャー起業論』はもともと、身近なところで問題・課題を発見し、その解決策をビジネスにつなげていくための手法を学び、年末に開催する『ビジネスプラン・コンテスト』で発表していくという形でスタートしました。
しかし、社会に対する興味や関心が希薄な学生が増えている状況の中、テキストを使った講義だけで問題・課題を発見し、その解決策をまとめさせるには限界があるな、と。そこで導入したのが、民間の経営者やコンサルタントを非常勤講師として招聘し、経営に関する話をしてもらうという講義でした。
ただ、こうした講義形式ではどうしても受講生が受身となって、自分の頭で考えようとしないように感じられました。そこで、企業でインターンシップを経験した学生がその企業の現状を調査し、問題点・課題点を発見して解決策をその企業の社長に提案するという『対決・理系研究室紹介』のイベントを取り入れることにしたのです。
つづく
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