学生ベンチャー育む土壌着々と
-インターンシップと連動したイベントを始めた成果はいかがですか。
阿比留 会社の社長というのは、いわば変化対応業。経営者にとって変化とは、新しい消費者が出てきてそれまでの商品が売れなくなることです。しかし、現場の最前線の流行り廃りは経営者にはなかなか分からない。新しい消費者が望んでいる商品はやはり、新しい消費者に聞くのが一番でしょう。
また、経営者は最近増えている新しいタイプの社員が何を考えているのかを知る必要もあります。そうしたことをトータルに考え、社内の問題・課題を発見し、その解決策を提案するという『対決』は、危機感をもっている社長ほど歓迎するだろうと判断したのです。実際、さまざまな地場企業の経営者に呼びかけてみると、私の趣旨に賛同していただける企業が何社もありました。
そういうプロセスを経て、現在の『対決』の形式ができあがったのですが、実際に始めてみると学生を受け入れていただいた企業にもイベントを楽しんでいただきましたし、学生も熱心に取り組んでくれました。そこで分かったのは、学生はきちんと舞台を与えてあげれば、期待に応えてくれるということでした。
高木 阿比留教授の『ベンチャー起業論』は、学生ベンチャーの立ち上げを目指すという全国的にみても草分け的講義ですが、これまでさまざまな試行錯誤を重ねながらより実効性の高い仕組みを作ってきたわけですね。実際にここから巣立っていった学生はどのような方向に進んでいるのですか。
阿比留 残念ながら、新しい大学発のプロジェクトが立ち上がるというところには至っていっていません。しかし、その土壌はできつつあるという手応えは感じています。
一方、就職という点でいえば、この講義を通じて経験したしたことが、就職に有利に働いている面は確かにあるようです。例えば、『ベンチャー起業論』の第一期生の中に東京の広告代理店・電通に採用された学生がいます。その学生は『ビジネスプラン・コンテスト』や『対決・理系研究室紹介』で優勝や準優勝するほどの実力の持ち主でした。
彼の話によると、面接の時に『ベンチャー起業論』の講義がどのようなものであり、具体的にどのような活動をして、何を学んだかということをアピールしたそうです。そして、そのことが良い結果につながった、と。ただ単に机上で理論を学ぶのではなく、インターンシップ先の企業の問題・課題を発見して解決策を提案していくというユニークで実践的な内容なので、面接する方も興味をもったのでしょうね。
特に、理系の研究室の研究をビジネス化の視点から紹介する『対決・理系研究室紹介』というプロジェクトは、文系の学生が一般教養の履修科目として自然科学概論などの科目を履修するよりはるかに多くの実践的な学習につながるという点でも高く評価されていいのではないかと思っています。
昨年11月には福岡市を中心とする県内の起業家に受講生がインタビューするという形で本まで出しました。こうした試みも全国的にもほとんど例がないのではないでしょうか。
つづく
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