学生と企業を結ぶ仕組みづくり
高木 私は現在、NPО法人キャリア教育サポートのキャリア・コンサルタントとして、地元の優秀な学生と優れた地場企業をマッチングさせるという活動に取り組んでいます。地元には事業規模こそ小さいものの、優れた技術力や考えをもった企業経営者はたくさんいます。
しかし、なかなか優秀な人材を確保することができない。何とかその悩みを解消できればとNPО法人を立ち上げたわけです。どうすれば優秀な学生を確保することできるのかが分からない企業は少なくありません。
一方、学生もどこに、どのような企業があって、どのような事業をしているのかが分からず、知名度の高さなどで会社選びをしているのが現状です。そこで、インターンシップを通じて地元の企業や経営者の考えを理解し、そこに自分のやりたいことがあるかどうかを判断してもらうきっかけづくりをしたいと考えたのです。
いろいろと大学を回っているうちに、阿比留教授が学生ベンチャーを育成するための実践的な『ベンチャー起業論』を講義していることを知りました。実際に講義の様子を見せていただいた時は、学生たちが目を輝かせて受講していたのが印象的でした。
阿比留 講義が実践的な内容であるだけでなく、仕事とはどういうものであるかが理解できないと先に進めないので彼らも必死ですよ。
高木 学生のうちからそういう経験をしていれば、自分が何をやりたいのか、自分のやりたいことをやれる会社はどこにあるのかを考えることになるので企業と学生のミスマッチも少なくなり、離職率も低くなるのでしょうけどね。
私の立場からいえば、仕事に対する意識が高い学生が多ければ、アプローチも図りやすい。しかし残念ながら、そういう学生は少数派です。今は実社会との接点をもつ機会も少ないですからね。だから、阿比留教授のような取り組みがもっと活発になっていけばいいと思うのですが、福岡では阿比留教授の講義が唯一だといっていい。
それで私たちは阿比留教授のご協力をいただきながらインターンシップを通じてまずは実社会を体験してもらい、さらには社長の考えや会社の内容を知った上で「こういう会社で働きたい」となるような環境づくりに取り組んでいるわけです。今はまだ、私たちの活動を多くの大学に理解していただく活動をしている段階です。
ただ、いろんな大学を回ってインターンシップの案内をしていく中で、地場企業の中にも魅力的な会社がたくさんあることを学生に知ってもらえるのは嬉しいことです。現在の活動を通じて、魅力的な地場企業の存在が口コミで広がり、就職を希望する学生が増えていけばいいと思っています。当面は、大学から学生を紹介していただいたり、大学に企業を紹介させていただける関係を作ることが課題です。
インターンシップで深まる理解
-やはり、優秀な学生の間では東京志向が強いのですか。
阿比留 そうですね。ただ、私の講義を受講している学生の中には『ビジネスプラン・コンテスト』や『対決』の準備をする過程で、インターンシップ先の企業に対する理解を深め、そのまま入社する学生がいるのも事実です。「小さくて目立たない会社だけど、地元にもこんなすごいことをやっている会社があるんだ」と、認識をするケースもありますし。
高木 今の学生は金銭的な待遇面よりも、どれだけ自分の思いを理解してくれるか、とか、会社の雰囲気がどうか、といったデータ上では分からない部分を重視する傾向もあるようです。
阿比留 学生ベンチャーの立ち上げが目的とはいえ、ゼロからビジネスプランを作り出していくのは、学生にとってハードルが高いのも確か。しかし、企業の問題・課題を見つけて改善策を提案するという形だとハードルも低くなるし、何より社員と一緒に取り組めるという大きなメリットがあります。
インターンシップ先の企業で学生たちが社員の方々と良好な関係を築くことができれば、学生は「この会社を自分が変えるんだ」という気持ちも抱くようです。会社にとってもそういう学生に対する期待は大きいのではないでしょうか。
ビジネスプランを立てる上で重要なのは、すでにあるものをどう生かしていくかという視点です。みんなが知っているけど、誰もやっていないこと。いわれてみれば、確かにその通りだな、と誰もが納得できるプランを立てることが大切です。
高木 おっしゃる通りですね。地場企業の経営者も阿比留教授の考えに対する理解を深め、しっかりとしたフォロー体制を敷けば、かなりの効果が見込めると思っています。
つづく
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