星崎氏の抵抗
その惨状を見て楽天が救済に名乗りをあげた格好だが、これがすんなりいったわけではない。イーバンク側の経営陣は、いざとなると楽天の支配下に入って経営の自主権を失うことを嫌がり、「臨時株主総会で楽天の出資を妨害しようと、星崎氏が暗躍した」と楽天幹部は打ち明ける。楽天側は乗り込む以上、イーバンク幹部の高い報酬や経費を大幅に削減し、松尾氏と星崎氏に退いてもらうつもりだったが、これにとくに星崎氏が抵抗したのである。
状況はちょうど2004年にイーバンクに出資したライブドアと同じだった。ライブドアはイーバンクの第三者割当増資を受けて14.9%を出資する筆頭株主となったが、いざイーバンクに乗り込むと運用先が不動産証券化商品に偏っているのを発見した。それも、いずれも旧長銀OBが経営にかかわっているアセット・マネジャーズやアーバン・コーポレーションがらみの案件や旧福岡シティ銀行傘下のカード会社九州カードの証券化商品などで、「非常にいわくつきの案件が多い。きちんとしたデューデリジェンスをせずに、持ち込まれたものをそのまま飲み込んでいるという印象だった」と、当時のライブドア幹部は振り返る。こうした問題点を指摘したライブドア側にイーバンク側、とくに星崎氏が激怒し、ついにはライブドアからの役員派遣は成功しなかった。ライブドアは出資したものの、当初描いた事業提携も役員派遣もまったくできないで終わっている。
繰り返される騒動
プロ野球参入、放送局の株式取得、そしてイーバンクへの出資と、ライブドアの後追いばかりしている楽天だが、イーバンクとの紛争泥沼化という点でも危うくその轍を踏みそうだった。
いざ出資をする約束をした後、楽天側がイーバンクの財務を精査すると、非常に問題が大きいことが分かった。「預金の運用先が流動性のない資産ばかりだった」と楽天関係者は言う。そうした点をイーバンク側に指摘すると、星崎氏の態度が硬化し、出資計画はご破算になりかねなかった。このため、最終的に松尾氏を取締役に残し、星崎氏を一種の顧問のようなかたちで一定程度の報酬を保証するということで楽天側は折れた模様だ。
イーバンクは今回の楽天を含めてこれまでに約30回も増資し、資本金を550億円も膨らましてきた。そのせいで株主数は非上場企業にも関わらず4,000人にものぼる。一時は上場を計画したが、「株主のなかに、アーバンなど、きわどい株主がいることを東証に懸念されて実現しなかった」(楽天幹部)という。これまでの増資は、アーバンやアセット社のグループ会社、九州カード、債権回収会社などイーバンクが不動産証券化商品を仕入れるなど、取引先に出資してもらっており、利益相反が疑われかねない面もある。
200億円を投入する楽天は、1,100億円を投じたのに膠着状態に陥ったTBS同様、予想外の重荷を背負ったようである。