涙ながらの訴えも、むなしく響いた。
3日午後6時から午後9時ごろまで福岡市役所で開かれた「新病院基本構想(案)」の市民説明会。「場所以外のことなら、一緒に話し合っていきましょう」と優く、語りかけるような吉田宏市長のパフォーマンスが光った。患者家族の訴えは紋切り型の“官僚答弁”で打ち消され、最後に指名された東区の小児科医が「東区に一刻も早くこども病院を」と訴え、その幕を下ろした。
出席者の約半数が市職員。残りの半数は、ほぼ関係者(医療従事者、市長応援団、患者家族、マスコミ)だった。
市民が参加しにくい説明会
なぜか。市民が参加しにくい説明会となっていたからだ。
まず、金曜日の夜という時間。患者家族は「平日の午後6時から9時といったら、子どもたちが家に帰り、食事をしたりその支度をする時間。子どもを抱える私たちの時間ではない」と憤る。
事前応募が必要だったことも。応募には、氏名、住所、連絡先が必要だった。そして「多数の場合は抽選」とも。しかし、応募期限を過ぎて「まだ大丈夫か?」と問い合わせると、「まだ余裕はあります。当日でも大丈夫です」という。市の思惑通り、抽選はおろか、参加者は予定した250人にも及んでいない。市は残席に余裕があることなどは一切広報しなかった。
さらに、出席者は身元を聞かれる。参加者のひとりは「市の方針を納税者の市民が聞く説明会なのに、住所、氏名、連絡先を知らせなければいけないのか。知る必要のない情報を要求するのは、まるで検閲だ」と怒っていた。
託児拒否
また、説明会に際して、患者家族は市に子どもの託児を依頼したが、「部屋が空いていないから」「保育士が病児を受け入れなれないと言っている」などとして、患者の子どもの託児を断っていた。「いま困っている市民を見ないで、将来のために人工島移転が必要という。市のやっていることは本末転倒だ」と患者家族は憤慨。
市は「託児は初めてで詳しいことがわからなかった」「お子さんの病気が重いので対応できなかった」と釈明するが、市や市長の説明を最も聞きたいのが、患者家族だということは、想像に難くないはずだ。
そんな説明会でも、患者家族は市長に何とか訴えようと、時間をやりくりして出席し、「人工島では困る」「子どもの命がかかっている」と時折涙ながらに訴えた。
しかし最後の質疑となり、市職員が指名した男性は、患者家族の心情を逆なでする非情な言葉を浴びせた。
「東区の2次医療は崩壊している。その意味で、東区にこども病院が来ることは大事。医療は全体のバランスが必要。一刻も早くお願いしたい」と。仮にも医者を名乗るこの男性は、質問ではなく、市長を援護する意見を述べるために手を上げていた。それも、患者家族の涙ながらの訴えの直後にだ。
「これから一緒に話しあいましょう」 →今後の説明は予定なし
吉田市長は「いまの計画はあくまで案。場所以外はすべてこれから詳細をつめる。一緒に話し合っていきましょう」と連呼、理解を求めた。しかし6日、市に今後の市民説明会の予定を聞くと、「今後説明会を開く予定はありません」(市保健福祉局)とキッパリ。