差はわずか数ポイント。古賀誠氏がリードしているが、野田国義氏と僅差―。自民党が実施した選挙情勢調査で、福岡7区ではこんなデータが出てきたという。大物政治家のお膝元で起きた謀反劇は、メディアの注目も集め、大激戦になりつつある。
「情勢次第で立場が逆転する可能性も十分ありえる」と民主党関係者。小沢一郎代表は「福岡7区は最重点選挙区」としており、今後も知名度のある議員が応援に投入されるようだ。新聞やテレビも「全国が注目する選挙区」と報じており、選挙戦本番を前に地元は過熱気味だ。
マスコミ報道加熱、いらだつ古賀陣営
この流れに、受け身となった古賀氏の陣営がいらだっている。
ある後援会幹部は「マスコミの報道が偏っている。刺客として登場した正義の味方が、悪の親分を倒すといった見せ方だ。『姫の虎退治』のようにおもしろおかしく取り上げられ、注目されるほど形勢不利だ」と不快感をあらわにした。一部で取材拒否もあっており、古賀陣営はマスコミ対策に躍起だ。
しかし、古賀陣営が苦戦を強いられているのは、刺客やマスコミ報道だけが原因ではない。大きな背景としては、若者の流出や産業の停滞から抜け出せない地域住民のいらだちが、政権与党に向いているという現実も軽視できない。
選挙マシーンの疲弊
07年の政治資金収支報告書によると、集金額は中川秀直氏に続き党のナンバー2。地元では橋や道路に「誠橋」「誠ロード」などの愛称が付くほど露骨に大型公共事業をもたらしてきた。「省内人事にも影響力のある議員」と国土交通省幹部も認める。そんな古賀氏がお膝元で刺客に苦戦するのは、もたらした公共事業が住民が真に求めるものではなかったことと、自民党の支持母体となってきた地方組織の劣化が一因だ。
福岡7区の筑後地方。豊かな田園風景が広がり、山林と有明海の恵みによって営まれてきた農林漁業が主体の地域だ。住民の多くは、商工業の団体や農協、漁協、消防団、婦人会といった地域のつながりの中に身を置いている。これまではこうした組織が自民党の選挙マシーンとしてフル稼働してきた。
しかしいま、地方の組織は一枚岩ではない。高齢化や担い手不足で農協離れが加速。国がやってきた農業政策への反発も根深い。諫早湾干拓事業に反発した漁協も自民党一色ではない。建設業の集票力の衰えは、特に07年のみやま市長選で、業界の締め付けが弱まっていることを証明した。シャッターを降ろす商店、跡継ぎのない田畑が増えるたびに、自民党の地方組織は崩れていく。
実績か、追い風か
一方、野田氏の支持基盤も盤石ではない。野田氏はこれまでの市長選や組合交渉の公表などで、労組と対立してきた。自治労の中には「野田氏はきのうの政敵だ。応援することに反感はある」との声もある。ただ、反感はあっても「組合票が流出する可能性は低い」という。
焦点は、保守王国を支えてきた組織や住民が、民主党になにを期待するかだ。アピールする実績や政治力十分の古賀氏。だが、次期衆院選後に自・公政権が続かなければその力は失われる。民主・野田氏に追い風が吹くのか。福岡7区から目が離せない。
【了】