10月6日、姉歯秀次元一級建築士による耐震強度偽装事件で建て替えを余儀なくされた「グランドステージ(GS)千歳烏山」(東京都世田谷区)と「GS溝の口」(川崎市)の元住民計57名が、国や民間検査機関・イーホームズを相手取り、総額約10億4500万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。
被害住民らがこの案件で国を提訴したのは今回が初めてで、訴状では「イーホームズが不十分な建築確認で姉歯の偽装を見落とした」と指摘。改ざんが容易な構造計算プログラムを指定した責任が国にあるとした。
こうした問題が、福岡市でも起こるかもしれない。「第2の姉歯」と言われた元サムシング代表・仲盛昭二氏が構造計算を手掛けた福岡市西区の某マンション(8階建て)である。もともと、この物件の構造計算書はユニオンシステムの「SS1」で計算されていた。その時点では、とくに耐力に問題なく審査も通って当該物件が完成した。
その後、2006年2月3日にサムシング問題(※)が起こり、同社が手掛けた物件を同年9月13日に再調査した。その際、新バージョンの「SS2」で計算しなおして、8階中1~4階までのQu/Qun(保有水平耐力/必要水平耐力)が1階で0.629、2~4階が0.749となりNGが発生したのである(通常Qu/Qunは1.0以上でOK、数値はY方向、右→左 加力時)。
そこで、この件について市当局に取材した。市は、「今回の補修は住民側から建築主に対して要望があり、再計算は建築主が行なったもので、旧バージョンのSS1が手に入らなかったから、SS2できちんとした結果でるように数値を『見直した』。市としても、補修すれば『NGがOKになるから』認めた。補修するかしないかの判断はあくまでも建築主の責任であり、当局としては構造設計者に伝える義務はない」ということだった。
これでは、再調査と称したサムシング提出の構造計算書の改ざんがあり、「早く問題を終息させたいから」という意図で、建築主の補修工事を当時の福岡市建築局が認めたのではないか、と疑われても仕方がない。
補修はすなわち不動産価値を毀損することになるので、「住民はこのことを知っているか」と尋ねると、「住民の了解なしには補修できません。建築主さんが了解を得ているはずです」とのこと。「仲盛氏から補修後の計算書の提出が求められているようだが、公開はしないのか」と再度尋ねると、「建築主さんが住民の権利利益を害する(=補修の事実が公になったら不動産価値が下がる)ため出したがらないから、公開はしていません」という答えだった。
補修後の計算書が非公開ということは、つまり、住民が補修の内容を具体的に知っていたかどうか、それが「補強(=Qu/Qun1.0以上)」になったかどうかの数値すら知らされていないのではないか。補修後の計算書さえ公開すれば、この問題もすぐに片付くはずだが。
「サムシングの物件で他にも補修したものがある」と当局は漏らしていたが、それらの補修が「補強」になっているのかどうか、その事実を住民がきちんと把握しているのかどうか。真の住民の安心・安全のためにも、今後とも追加取材して検証していきたい。
(※)サムシングが構造計算を行なった賃貸共同住宅4件中3件について、再計算を依頼されていた(社)日本建築構造技術者協会(JSCA)から福岡市に対して、偽装があったと考えられると伝えられた問題。