指定管理者で昨年度北九州No.1
2005年4月、伊藤豊仁氏が全国初の公立図書館の指定管理者として戸畑図書館館長に就任するや、古くなっていた建物という制限があったものの、利用者目線で多くの改革を実行した。まずは、接遇など職員の意識改革に取り組み、さらに人脈を活かしてビジネス支援講座や「図書館deコンサート」といったイベントを開催している。
図書館を利用する層が限られていたなか、いかに新しい層に来館してもらうかがカギだったという。忘れていた図書館の使い方を、もう一度改めて経験してもらうことで継続的な利用者に変身するそうだ。もちろん人を集めることは大変で、イベントも魅力的なものを企画しなければならない。また予算の制限も大きいので、ほとんどが伊藤館長の個人的な知り合いが手弁当で協力してくれているとのこと。この4月にも「これからどうなる!?日本と中国」と題して08年度第1回のビジネス支援情報講座を開催した。この講師も伊藤館長の知己である九州国際大学の山下睦男国際関係学部長である。
図書館も「待ちの経営」から「情報発信型経営」に変身させ、市民が1日楽しんで過ごせる場所に変えていきたいとのこと。財務的には指定管理者となりコスト削減せざるを得ない。以前は事務職が7名いたところを3名にしたため、現場の負担は非常に大きくなったという。館長自身もほとんど休みがない。昨年、指定管理者として北九州で唯一Aランクというトップの評価を受け、再契約5年が決まった後、今年になって過労で3週間近く入院したという。
いかに優れた館長・経営者でも、限られた人件費・人員のなかで働き続けていかなければならない苦労は並大抵ではない。しかし伊藤館長は言う。「ミッションとパッションを持って働くことが一番必要」だと。
昨年、北九州市役所前の勝山公園一帯が非常にきれいに整備され、その中央部にある中央図書館の利用者にとっても過ごしやすい空間となっている。伊藤館長は地域の情報センターであり、癒しの空間でもある図書館を、まちづくりという観点からもっと積極的に検討してほしいと訴える。運営は民間に委託できるものの、施設自体の整備はやはり行政に責任がある。伊藤館長は、百道にある福岡市総合図書館を例にあげて、DVDを見られるコーナーがあったり、アジアの映画を上演していたり、周囲の落ち着いた環境のなかで市民がゆっくりとできる空間を、北九州でも実現できればと願っている。
行政のコストを下げるために導入された指定管理者制度だが、行政側にも、質を維持しながら受託側が継続的に経営できる方策を探る必要がある。この制度については、財政面の厳しさも指摘されている。宗像ユリックスが指定管理者による運営になったが、受託側が辞退して行政の運営に戻ったというケースがあるとのこと。どの受託者に聞いても、財政面の厳しさが浮き出てくる。
今のところ、伊藤館長個人の魅力・人脈でさまざまなイベントを実施することができ、サービスも維持できている。しかし結局、指定管理者としての運営は人の育成に尽きるという。後継者育成も重要であり、その職務に応じた給与を出せる制度が必要になってくる。
市の財政状況が非常に厳しいなかで、指定管理者による質の高いサービスを維持させていくためには、本当に利用されている施設かどうかを含めて、大きな視点で評価を見直す必要があるように思われる。集中と選択という観点から、利用度の低い施設は思い切って廃止するぐらいの政策的判断が問われているのかもしれない。
北九州に対して非常に愛着を持っている伊藤館長に、北九州がどのようなまちになれば良いか聞いてみた。「経済的に元気な街という考え方もあるだろうが、少子高齢化の流れのなかで、安心、安全、快適なまちづくりが必要ではないかと思う。シニア世代が多く集まる北九州は、質の高い生活ができることを目指していけば良いのではないか。しかもすでに多くの施設があるので、後に負担が残る箱モノを作るのではなく、ソフト面での充実が重要だと思う」。
伊藤館長は「とにかく、戸畑図書館をいろいろな人が集まる場所にしていきたい!」と語る。
戸畑図書館には、まもなく「アジアコーナー」が開設される。これまでの「韓流コーナー」を活かし、「アジア講座」を増やすなど幅広く「アジア情報」の集積を進めるとしている。
「民間の館長」の益々の活躍に期待したい。
(講座やイベントについてはホームページをご覧下さい)
http://fukuoka.cool.ne.jp/ruri12003/tobata.top.html
取材 松尾潤二