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東京レポート

田中角栄元首相ゆかりの井上工業が破産(下)
東京レポート
2008年10月31日 09:30

マンション開発業者が乗っ取る

 ファンドが市場で売却した井上工業株を買い占めて筆頭株主に躍り出たのが、マンション開発会社、プロス住宅(現プロス・G、東京・中央区)とその経営者の宮崎純行氏(64)である。06年8月、井上工業はプロス住宅と共同出資でフォレスト(高崎市)を設立。首都圏での新興デベロッパーのマンション建設の受注獲得に走った。
 07年3月期、プロス住宅グループの持ち株比率は44%に高まり、井上工業を乗っ取った。6月の株主総会で、宮崎氏が新社長に就任。社長に就いた宮崎氏は子会社のフォレストを通じてプロス・Gにマンション開発の事業資金名目で07年8月、11億円を融資。このうち5億円が回収不能。井上工業の資金繰りが悪化する要因になった。プロス・Gの社長は宮崎氏の長男が務めている。
 宮崎氏は同業者である東証一部上場の佐田建設(群馬県前橋市)の株も買い占めた。07年9月には関連企業名義分をあわせると実質的な筆頭株主に。佐田建設は買収防衛策を導入するなど、井上工業を乗っ取った宮崎氏と火花を散らした。

 宮崎氏は複数の仕手戦に運用する信用取引の担保に井上工業株を差し入れていたが、追証が払えず井上工業株を大量に売却。08年1月に株価が急落する事件を引き起こした。
 この事件が、宮崎氏の命取りになった。井上工業は08年7月に開いた取締役会で、「社長不適任」として宮崎社長の解任動議が出されて、賛成多数で決議。会社に報告せずに自社株を売買したことは社内規定に違反したというのが解任理由だ。社長には、生え抜きで前社長の中村剛副社長(64)が昇格した。

増資直後に破産

 井上工業は事業の主体を公共工事からマンション建築工事にシフトしたが、マンション不況の影響を受け、08年3月期の連結売上高は279億円に低迷。借入金の返済が遅延。09年3月期の第1四半期の決算で、継続企業であるとの前提に疑義の注記がついた。信用不安が一気に拡大。この時、助け人として、これまた怪しげなファンドが登場する。
 井上工業は9月24日、第三者割当増資で18億円を調達したと発表した。アップル有限責任事業組合(東京・中央区)が1株当たり12円で1億5,000万株を取得し、58.27%を保有する筆頭株主となった。
 ところが、その直後の10月16日に井上工業は自己破産を申請したのだ。会社側の説明によると、破産の引き金を引いたのは、当時の部長による資金流出。第三者割当増資で得た18億円のうち15億円を外部に持ち出していたという。
 10月22日開かれた債権者集会での破産管財人の説明は、これとは食い違う。15億円が外部流出したのは増資直前で、その資金が投資事業組合に渡り、同組合の資金とともに18億円増資の原資に使われた。見せ金増資だった疑いが強いという。

 ファンド錬金術の手口がこうだ。ファンドの出資者の負担は3億円なのに18億円分の井上工業の株を手に入れた。18億円分を市場で売却すれば、濡れ手に粟のボロ儲けができる。実際、増資後の9月下旬の高値は18円で推移。18円で1億5,000万株を売却すれば27億円。元手の3億円を差し引いて24億円荒稼ぎした計算だ。 
 破産管財人は「警視庁と調査中」としている。早晩、井上工業の闇の資金の流れが解明されることになる。(日下淳) 

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