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特別取材

古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵 劇団エーテル主宰・画家 中島 淳一 (下)
特別取材
2008年11月 9日 10:18

●リヴァイアサンの誕生

 かくしてすべての人間が自分の絶対自由<自然権>を行使しようとすると、自分の自然権そのものが守れなくなるというパラドックスが生じる。そこで、初めて人間は理性の命令としての<自然法>にしたがう義務に目覚める。それは人間が持っている自分の自然権を制限してお互いに他者を害せず、最良の方法で平和を維持することを意味する。それは個人を超えた上位の共通の権力を樹立することによって可能となる。「これが達成され、多くの人々がひとつの人格に統合されるとき、それは<コモンウエルス>と呼ばれる。かくして偉大な怪物Leviathan(リヴァイアサン)が誕生する」とホッブスは言う。

 リヴァイアサンとは、旧約聖書、ヨブ記41章に登場する巨大な海獣であり、ホッブスは「国家の権力」の意味で使っている。人々から権利を譲渡された国家は契約にしたがって義務を果たすよう人々に強制する絶対的権力を持つことになる。人々はこれに抵抗することは許されない。もし国家権力が弱かったり、人々が服従しなければ、再び万人の万人に対する戦いの状態に戻ってしまうからである。この国民一人ひとりの自然権に基づく国家主義の絶対性は、近代民主主義の基本原理として継承されていく。

 しかし、市場原理主義経済の現在において、リヴァイアサン(政府)は、中小企業に対しては自由競争と自己責任という原理原則を振りかざし、巨大金融機関に対しては介入して救済するという理不尽な行動をとる。これはすなわちグローバル化という見えざる鎖により、リヴァイアサン(政府)を支配する「虚」のリヴァイアサンの存在を暗示している。


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