11月17日、姉歯元一級建築士による構造計算書偽装を国土交通省が公表してから丸3年を迎える。この3年間、改正建築基準法の施行による住宅着工件数の激減をはじめ、建設・不動産業界を取り巻く環境は大きく変わった。
当時、「第2の姉歯」としてマスコミに騒がれた元サムシング代表・仲盛昭二氏からこの件についてコメントが寄せられた。以下、紹介したい。
姉歯建築士による構造計算偽装が発覚してから、丸3年を迎えます。今月12日には、グッドウィルグループの高級老人ホームにおいて、構造計画研究所による偽装が発覚しました。
かつて私(サムシング株式会社)が設計に関わった物件についても、平成18年2月8日、福岡市が「構造計算偽装」と一方的に発表を行いました。私としては、設計図書の一部に不整合があったとしても、偽装など行ってないことを主張してきました。
設計図書の不整合につきましても、建築確認の審査段階で、役所による「差し替え」の指導が、一般的に行われており、大半の物件において、構造計算書と図面の不整合があったことは、多くの建築関係者が認めていることです。当時の建築確認行政が制度として未熟だったこと、また、設計者側も、役所の指示に甘え、設計図書全体の刷新を怠ったことも原因です。
しかし、最も大きな原因は、建築確認審査を行う役所の担当者が無知であったことです。
以前、福岡市の建築行政の責任者が、「私たちは構造計算のことはわからない」と発言されたことがありましたが、ここに大きな原因があります。
サムシングの設計物件が問題になり、その後の調査で耐震強度を満足していたことが公表されましたが、福岡市役所の方は、誰一人、行政としてのミスを認めず、責任も取られていません。それどころか、建築主や元請設計事務所に対して、「サムシング関与物件の再計算書または設計図書の提出」を命じ、さらに、従わない場合、罰則の適用もあると、圧力をかけました。
この命令に従って、設計図書や再計算書を提出したものの、未だに福岡市が結論を出さずに、2年以上も放置されている物件が多数あります。
本当に、建物の安全性に問題があるのであれば、2年以上も放置すること自体が、行政として問題ではないでしょうか? 緊急性が全くないことは明らかであり、福岡市が行っていることは、「偽装」と断定できる物件探しに他なりません。現に、建築主が提出した再計算書に対する福岡市からの質疑の内容も、担当者の主観に基づくものであり、法的根拠に乏しいものです。このことからも、福岡市の目的が「市民の安全確保」ではなく「自己保身」であることは明らかです。
毎月、国交省九州地方整備局において、九州の各自治体が集まり、構造計算偽装問題の協議会を開催されていますが、福岡市の物件の調査は遅々として進んでいません。
福岡市による一方的な「偽装」との公表以後、私も周囲も、人生が一変してしまいましたが、福岡市がこの問題の解決を真剣に考えているのであれば、私は、協力は惜しまないつもりです。
昨年、建築関係の法令改正が実施され、その運用の混乱から建築業界は不況に陥りました。
昨今の金融不安もあり、不況に拍車をかけています。しかし、法改正の運用や準備に問題はありましたが、建築確認のシステムを確立したことは素晴らしいことだと思います。
但し、法改正による制度の確立と、姉歯建築士のような犯罪は次元の違うことであり、今後も、同様の罪を犯す人間が出現する可能性はあります。従って、建築業界の体質も改めるべきところは改めていくことが必要ではないかと思います。
現在、私は、協同組合建築構造調査機構という構造設計を中心とした設計集団に所属しています。この協同組合にも、各方面から関心を寄せて頂いています。
この3年間、設計事務所、デベロッパー、ゼネコンの中には、私に声援を送って頂いた方が大勢いらっしゃいます。この方々に恩返しするためにも、今後とも、この協同組合の事業を通じて、微力を尽くしていきたいと思っております。
平成20年11月13日
協同組合 建築構造調査機構 一級建築士事務所
仲盛 昭二
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▼共同組合 建築構造調査機構
http://www.asio.jp/
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