S氏の50人盗み
「作州商事のため、城戸社長のため」と献身的に尽くし、実績をあげた例は枚挙に暇がない。S氏の健闘ぶりを目の当たりにすると、「弊社にも、会社のためにこれだけ必死に体を張ってくれる人材がいて欲しい。城戸氏と何処が違うのか。経営者としての自分は、人格面で大幅に劣っているのだろうか」と自問自答して、嫉妬し、落胆することがしばしばあった。前回指摘したとおり、S氏だけでなく、城戸氏のもとにはK氏、H氏以外にも十指を超える逸材が集まっていた。だから業績が短期間で急伸したのであろう。
その人材集めに奔走したのが、S氏である。彼の元職場から、目ぼしい人材をかっぱらっていくから恨みを買う。マンション業界で評判の人材に対しては、人を介して転職の勧めを行なう。声をかけられた人材は、誠実な雰囲気のS氏の話に、耳を傾けてくれる。結果、作州商事に入社してくれるのである。S氏が直接、スカウトに成功したのは、50人(50人盗み)前後と思っていた。ところがある同僚は「スカウトされた人が仲間を誘って一緒に入社してくれたケースもあるから、延べにすれば100人を優に超えている。人材募集のための広告費が大幅に圧縮されるという、副次的な貢献もしている」と証言した。
「社長でもないのに何故、そこまで命をかけて人集めをしたの? 城戸氏は感謝してくれたのだろうか?」という皮肉を込めた質問を、S氏にしてみた。「最初の頃は、優秀な会社にするためには優秀な人材を集める必要があり、それが私の使命だと思って奮闘したが、あまりやりすぎると良くないですね」とS氏は、反省を込めて振り返る。筆者は「そーでしょう!! 最初の段階では感謝の意を示すだろうが、後々には当然の行為であると錯覚するようになる。Sさん!! あなたはやりすぎて、城戸氏を神様に祭り上げてしまったと思う」と断じた。S氏は頷くしかなかった。
泰道に殉ずる
城戸氏は若い時期に、難病で悪戦苦闘したことがある。このピンチを医療に頼らず「泰道」という信仰の力によって再起した。この「泰道」(現在・寶珠宗)による宗教活動は、『朝日新聞』で糾弾キャンペーンを展開されたことがある。城戸氏が筆者に向かって必死に「泰道」の正当性を説いたことを、鮮明に覚えている。宗教活動を個人の精神の領域に留めておくのであれば、とやかく非難される筋合いでもなかったのだが、商売上の力関係を利用して、「泰道」の普及に努めたのである。
城戸氏は、作州商事の社員を対象に、同宗教に関する定期的な研修を計画するばかりでなく、取引業者にも研修を義務付けた。取引業者が城戸氏による「泰道」流の宗教行為を前に、神妙に低頭している様を想像する度に、滑稽な気持ちになった。取引先の擬似信者に「信者ぶってまで仕事が欲しいの。情けないね」と詰め寄った。この業者は「いや、作州商事さんから沢山の注文をもらえることを期待しているから、従っているだけだ」と弁解した。商売のためには節操も曲げる、ということだ。作州商事の幹部の中に、1人でも「城戸社長!! 宗教活動は個人でやってください」と退職を覚悟で諌めることができる者がいたならば、多少は事態が打開されていたかもしれない。「泰道」の研修に際して、従順に参加する愚民のごとき人々を見て、城戸氏は自らが神になったかのような錯覚に陥ったのではないか。(続く)
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