幹部社員を押さえつけるための弱点を握る
このシリーズに登場したかつての幹部たちK、S、H3氏を、城戸氏は一時は重宝がるが、会社の内部といおうか、同氏個人のやり口を知られすぎた場合には「不味(まずい)な」と判断するのか、会社組織の中枢から遠ざける手法を常に活用してきた。一番手っ取り早いのは降格させたうえで減俸し、退社に追いやることだ。3氏は同様な手口で組織の外に追いやられた。そのやり口が巧妙である。個人間を分断するのが非常に達者なのだ。場を踏むに従って、社員たちに造反に向けた連係プレーを取らせないための術の巧みさには、段々と磨きがかかっていた。
K氏が辞めるのと入れ替わりに、大物のA氏がスカウトされ、入社した。最初、城戸氏は、A氏に対し敬意を込めた態度で接していたがA氏はある物件に関する責任追及をうけて、借用書を書かされる羽目に陥ってしまった。この時点を境にして城戸氏のA氏に対する扱いは、粗雑且つ無礼なものになっていった。肩書きも大幅にダウン。A氏をスカウトしたある社長は怒る。「A氏のお陰で数々の現場トラブルや、建設業者との交渉が丸く収められてきたではないか。それを忘れて恩義を仇で返すなんて許されない」と。
『社員のため尽くす』と挨拶
さて、樺島社長が作州商事に入社してきた。筆者は同氏には福岡シティ銀行在籍時代から面識を得ていた。作州商事に入社すると聞いたときに「何と物好きな選択をしたものか。世間を知らないな」と内心では嘆いた。前記のS氏が樺島氏を連れて挨拶に来た。その席で判明したことは、S氏が銀行にお願いして樺島氏を招聘したということである。当時、S氏は会社のために24時間、粉骨砕身尽くしていたのだ。この敢闘精神は羨むばかりである。
S氏は資金調達においても銀行を飛び回っていた。作州商事の銀行取引の特徴は、プロジェクト案件に関する融資の獲得である。だから取引行の数が多くなる。商品供給が福岡だけでなく九州一円、更に、一部本州にも及んでいったために取引銀行は10行以上に及んでいた。S氏としては「どうしてもメインバンクが必要だ。その為には銀行から人材を求めることが先決だ」と痛感していたのである。それで先手必勝とばかりに、バンカー樺島氏のお迎えをはかったのだ。
挨拶の席で樺島氏に皮肉を込めて警告を発した。「城戸社長には常識外れなところが数多くあります。銀行に在籍していた時と幹部社員になった現在とでは、彼の貴方に対する対応は、豹変したかというほどに違っているのではないかと思いますよ。貴方の銀行の同僚先輩たちから意見を聞いていますが、『物好きなところに再就職したな』という声が圧倒的でした」。樺島氏は、「確かに城戸社長の奇奇怪怪な行動に対する一部の批判については知っている。その事実を踏まえても縁があった以上、まず社員たちがやる気を持てる、プライドを抱くことのできる会社造りに努めたい」と抱負を語ってくれた。
この段階ではS氏も会社への忠誠心に燃えていたから「樺島さんと力を合わせて常識的な会社にする」と口裏を合わせていた。城戸社長は樺島氏に対しては一目を置いた扱い・発言をしていた。樺島氏の背後にある銀行の存在に神経を使っていたのだ。ところが神様と目されていた城戸社長を社員が『脱税行為の暴露』で刺したのだ。「もう我慢ができない」と怒りを爆発させたのである。ここから樺島氏が表舞台に立つ局面に突入していく。(続く)
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