環境が厳しくなる菓子業界において、「一人勝ち」の評価を得ている(株)明月堂。今年3月には新工場を稼動させ、ますます勢いに乗る。ヒット商品「博多通りもん」に注目が集まるが、同社の強みはむしろ戦略にある。
(株)明月堂
代 表:秋丸 卓也
所在地:福岡市博多区東那珂2-11-23
設 立:1952年1月
資本金:3,000万円
年 商:(08/5)37億5,000万円
市場を変えたお化け商品
「博多通りもん」の商品力に関する逸話は多い。「人気ドラマで取り上げられたという情報を顧客からもたらされた」「海外で活躍する日本人アスリートが帰国すると必ず大量に購入する」など。年末のとあるサービスエリアでは「『博多通りもん』を置いている最後の販売所です」といった趣旨の張り紙が出されたこともあるという。
この単品の強さを背景に、08年5月期は37億5,000万円を売り上げた。05年がおよそ27億5,000万円であるから、3年間で10億円伸び、そのほとんどを「博多通りもん」が担っている。1日2,000個を目標に出された商品は現在、1日に約20万個を売り上げる。
100年を超える銘菓も珍しくないなか、市場に登場してからわずか15年、「博多通りもん」はトップブランドの地位を築き上げた。餡にクリーム・バターを用いた和洋折衷饅頭について、「斬新。画期的な新製品だった」と業界関係者は振り返る。
明月堂は究極の同族経営と言える。1929年に先代の秋丸祐一郎氏が創業した。長男で現代表の卓也氏は84年に就任。現在4名の取締役は、社長の卓也氏以下いずれも兄弟で占める。専務で製造部担当の桂三氏は二男、常務で総務・経理担当の武士氏は三男。企画・営業を担当する純一郎氏は五男である。同族経営の弊害が叫ばれるなか、20年以上にわたってこの体制で成長してきたことになる。4兄弟がことごとく異なる才を有し、適所に配されている稀有な例だ。
祐一郎氏は創業期に、煎餅の生地を飴に巻きつけたセル巻き煎餅を半分にした「ハース巻き煎餅」を開発し大ヒットに結びつけた。戦後はインゲン豆の一種を餡に用いた明月饅頭を開発して人気を築く。高度経済成長期にはカステラで一時代を築いた。博多で最初にカステラをカッティングし提供したのは明月堂だと言われている。
しかしその後は、ニーズの多様化でカステラ依存の多くの菓子舗と同様に売上を落としていく。こうしたなか、経営幹部は全国の人気商品を視察してまわった。かつてはそのうちのひとつを目標とした時期もあったが、これまでと同じくオリジナル商品の追求こそが生き残りへの道だという結論に達した。顧客から要望の強かった饅頭に絞り、商品開発に没頭した。餡の開発だけで1年半、足掛け4年もの難産の末、ようやく「博多通りもん」が誕生した。
鉄の結束を誇る同族経営だからこそ、安易な模倣に走らず、画期的な商品誕生を待てたとも言える。