福岡空港調査連絡調整会議(国交省、福岡県、福岡市で構成)によるPI最終段階であるステップ4が実施されている。
PIとは、パブリックインボルブメントの略で、「政策形成の段階で人々の意見を吸い上げようとするために、人々に意思表明の場を提供する試み」と了解されている。
行政が公共事業を進めるにあたって、一方的に決定するのではなく、市民から意見を聴取して計画策定プロセスに反映させていくとするものである。
福岡空港の総合的な調査は、市民に対して情報の提供と意見の聴取を行なっており、その後、PIの実施報告書が作成され、有識者委員会に提出される。そこで評価と助言が行なわれることになっており、これを踏まえステップ4の終了と結果が公表されるという流れになっている。そして関係行政機関によって対応案が決定されることになっている。
PIが生まれた背景
そもそもこのPIという手法は、国による一方的な決定とこれに抵抗する農民らの対決で流血にまでなった成田空港の建設と開港への深い反省から生まれたものだと言われている。時の運輸大臣が農民らに「土下座」するまでの事態になった。国が上から一方的に決めるのではなく、市民に対して情報を提供し、意見を聞くなどして合意形成を図っていくというものである。
今現在、ステップ4で計画された説明会や意見交換会は終了し、12月10日の市民意見募集締切日が迫っている。
これまでの市民意見交換会や説明会を振り返ってみて、一言で言えば「PIとは、政策を進めるための形だけのもの」ではないのか。「行政の単なる自己満足に終わっている」のではという思いがますます強くなってきている。
市民の声は反映されていない
ステップ1から3までに寄せられた市民からの意見が、どう反映されたのか。これまでに出された市民などの意見の多くは、控えめにみても「北九州空港などとの連携」が多かった。にもかかわらず、ステップ3で「連携案」は「抜本的方策とはなりえない」との理由で退けられた。
ステップ4では「増設案」と「新設案」の2者択一になっている。それを前提に市民が意見を述べるということだ。「現空港のままで、連携が良い」と考える市民は、究極の選択を強いられることになる。これについては、県議会特別委員会でも疑問の声が出されていた。
そしてさらに、「増設案」「新設案」を議論するにしても、情報が不十分であるとの多くの意見が出されている。「新設案」では、事業費が妥当かどうか、その根拠や負担割合が示されていないこと、環境調査がされていない等々。あるいは「跡地利用」の具体策、地権者の生活保障、街づくりの方向性など基本情報が与えられていないことだ。こうしたことへの市民からの不満の声は日増しに大きくなっているようだ。「きちんとした情報がないと議論のしようがない」ということだ。
市民の声が反映されない仕組み
前述したように、ステップ4が終了した後、最終的な対応策が決定されるが、その決定主体は「国」である。国土交通省の担当官も言っているように、県知事、福岡市長の意向を踏まえて国土交通大臣の決定が下されるのである。
市民の声が仮に「増設案」が多数であっても、国として「新設案」を決定することができるし、その逆もあるということだ。
どちらかの案が決定して「構想段階」や「施設計画段階」に進んだ場合にもPIが実施されることになっているが、それはあくまでも「市民の声を聞く」=「聞き置く」ということでしかない。そういう仕組みになっているのだ。まさにPIを「隠れ蓑」に構想と計画が進むということでしかない。ここにPIの一番の問題点があるだろう。
市民が声を出すことで、決定権を取り戻す
官僚が判断し、決定したとしても、彼らは数年経てば異動し、その決定についての責任を負うことはない。ましてや市民の意見に反した決定によって重大な被害が起きたとしてもその責任を問われることは稀である。誰も責任を負わない「無責任の体系」が官僚制の特質でもある。
だからといって、市民が声を出さねば実際上「黙認した」ことになる。「増設」か「新設」かという2者択一の選択で良いのかどうかも含め、市民からの意見を伝えることが必要だろう。
市民の大多数の意見に反した「判断」と「決定」がなされたならば、PI自体が形式にしか過ぎなかったことが証明されるだろう。また、本当の決定権者は市民であることが逆に浮き彫りになることになるだろう。