奥田碩氏（トヨタ自動車取締役相談役、元日本経団連会長）が座長を務める「厚生労働行政に関する懇談会」は、これまで４回の会合を開催している。奥田氏が、厚労省に対して厳しい批判をする内容のテレビ番組に対し、「報復する」とか「コマーシャルを減らす」と発言したのは、11月12日の厚労懇４回目のことである。既に1回目の会議の冒頭、奥田氏は、同省を批判する国民の方が悪いかのような発言をしていたのだが（15日既報）、第3回までの議事録を読む限り、奥田氏がなぜ過激発言にいたったのか、明確な答えは見えてこない。ただ、奥田氏が、厚労懇第1回目の発言に見られるとおり、厚生労働省に対する批判そのものを快く思っていなかったのは事実である。

　そもそも、厚労省が引き起こした年金、薬害といった問題に、国民の厳しい批判が集中するのは当然である。仮に民間会社の責任により全国的規模で多くの犠牲者が出るような事件を引き起こせば、倒産は免れないだろう。しかし、厚労省はそれらの問題について、責任の所在もはっきりさせていない。まさに親方日の丸、泣きを見るのは納税者ばかりなのだ。政治もまた無策であったことの責任を取っていない。

　ぶつけどころの無い怒りを「厚生労働省」という官庁に向けるのは当然のことである。
奥田氏による、厚労懇1回目の国民批判や、12日の「報復」発言は明らかに世間に対する「威嚇」である。何様かと言われて当然の態度であり、厚労省を立て直すための懇談会のトップにふさわしいとは思えない。最初から厚労省をかばう姿勢の人物が、膿を出しきれるはずがないのである。
　
　奥田氏の過激発言が社会問題化したためか、厚労懇の4回目の議事録は公表されていない。官邸のホームページ上には、4回目の議事次第と配布資料だけがアップされているだけだ。3回目までは議事録も公表されていたが、さすがにそのまま公表するのがためらわれるのだろう。論より証拠で、3回目までの議事録を読めば、厚労懇の議論が、てんでバラバラなことが良く分かる。社会保険庁の詐欺的行為も含め、厚労省の腐った体質に斬り込む発言は乏しい。委員の中で、比較的市民に近い立場で発言しているのは浅野史郎氏（慶大教授、元宮城県知事）くらい。しかし、議事録からは、その浅野氏と奥田氏の間がギクシャクしていることが読み取れる。この程度の会議で国民を納得させる改善策が出てくるとは到底思えない。会議を利用して国民を威嚇するようでは、結論は見えている。