トヨタ自動車の奥田碩相談役が座長を務める「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」。厚労省に対する厳しい批判に逆切れした奥田氏が、テレビ番組に対し「報復」「スポンサーを引く」などと発言したことで、注目を集める会議となった。
奥田「威嚇」発言が、この会議の姿勢を明確に物語っているが、議事録からは、さらに驚きの発言がなされていたことが明らかとなった。
厚労懇は今年8月から合計4回の会議を開いている。2回目が開催された9月8日、ある委員(大学教授)から次のような意見が出されていた。「記録ミスや記録にかかわるエラーは現在も起こっているし、将来もゼロにはできない。社会保険庁の職員が真面目にさえなれば、この問題は起きないだろうというような考え方は全く錯覚だと私は思っているんです」とんでもない発言だ。
もともと年金問題は、社会保険庁職員の犯罪ともいえるような行為に起因している。要するに「真面目に仕事をしていなかった」ということ。厚労懇自体、そうした不祥事を受けて発足した会議のはずだ。なぜ「真面目に」仕事をしなかったのか、どうすれば「真面目に」仕事をするのかが真っ先に問われなければならない。さらに言うなら、「記録ミスやエラーはゼロにはできない」と思っている人がこうした会議の委員になること自体が間違いであろう。
国民の多くが怒りそうなのは、この大学教授の発言の続き。年金問題を引き起こし、国民を不安のどん底に突き落とした社保庁の職員が、社会保険記録の回復という、当然の仕事をしている状況に対し「信賞必罰というんですが、信賞の部分がほとんど見えない。過去にのぞいたこと(注・年金の個人記録を業務外でのぞいていた犯罪行為のこと)で罰する、あるいは記録の改ざんをやった人を見つけ出してまた処分するというような脅しの話はいっぱいあるんですが、国政の最重要課題の解決に貢献大であった人を褒めたたえ激励するということが本当にできているのか」と訴えるのである。
厚生労働省お抱えの御用学者なのか、不祥事根絶を話し合う会議で、不祥事の本家とも言うべき社保庁職員を「褒めたたえ激励しろ」というのである。首相官邸で堂々とこのような発言がなされ、何ら問題にもならなかったのは、どういうことだろう。マスコミ各社は座長の奥田氏、そしてその後ろにあるトヨタ自動車の広告費に腰が引けていたのではないか。もし、税金を使ってこのようなくだらない議論をつづけるなら、「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」などというもっともらしい会議は即刻中止すべきである。国民目線を知らないどころか、国民の心情を踏みにじるような輩に出してやる税金などないはずだ。