―設備技術力による快適マンション造りで、社会貢献しようと思ったのだが―
　『技術力で社会に貢献する』という熱き思い・理念を抱いて経営を展開していても、思わぬところから火の粉を被り倒産寸前の状況に陥ることがある。（株）曙設備工業所（代表・野田弘之氏・本社福岡市早良区）はゼネコンから累計4億円にものぼる不良債権の打撃を受け、瀕死の状態に転落したことがあった。そのゼネコンの中でも代表的存在であったのが高木工務店（本社・福岡市南区、2002年8月倒産）、豊栄建設（本社・佐賀市、03年12月倒産）などである。

　この２社はマンション受注を主力にしてきた。共に「快適なマンションを建設して社会に貢献する」という社是を掲げていたはずだ。しかし、現実は採算が取れず業者の倒産による貸し倒れが発生し、連鎖倒産した。豊栄建設などは浮ついた不動産転がしなどすることもなく、建設業一本を貫き、実需ビジネスを体現してきた会社だ。それでも、不動産市況の浮き沈みに巻き込まれ、淘汰されていくという、厳しい現実がある。こうしたゼネコンの下で給排水、空調設備を引き受けてきた同社は、業界ではサブコンと呼ばれている。受注元である建設業者が倒産する場合、その下請であるサブコンが筆頭大口債権者となる危険性が高い。曙設備工業所は1998年から2003年12月までの５年半の間に、総計４億円となる焦げ付きの連続パンチを受けた。当然、経営崩壊寸前の事態となった。

設計・施工の提案に特化

　同社の受注スタイルは、同業他社とは違う道筋を歩いてきた。設備業者は、建設業者に盛んに営業攻勢をかけるのが普通のパターンである。同社の場合は、建設業者に対して営業活動を行なうのではなく、設計事務所を対象に設備設計・施工の提案を行なうことで、同業者との差別化を図ってきたのだった。ある意味では、設計事務所の省力化に貢献してきたともいえる。設備設計の業務を曙設備工業所が引き受けることにより、重宝がられてきたのだ。永い蓄積を行なった結果、絶大な信用が形成されることになる。やがて設計事務所は、得意先のマンション業者・デペロッパーを紹介してくれるようになる。野田社長はデベの経営者と懇意になってゆく。

　あるゼネコンの経営者が同社の信用照会を弊社に行なってきた。「マンション会社の社長から『曙設備工業所を使ってくれ!!』と指示があったので、断れん。実際の経営内容はどうなのだろうか？」という内容であった。前記したように、同業者は建設業者に頭を下げて仕事を貰いに行く。同社の場合は、ゼネコンのお客を通して営業ができるスキームを完成させた。まさしく「設計・施工の売り込みを設計事務所に特化」する戦略が功を奏したといえる。

　設計事務所からデベロッパーに対し、紹介を頂く「営業深堀戦略」の精華は、ここに至って大きく満開し、結実しようとしている。08年12月期の完工高は30億円の大台に到達しそうだ。現在、受注残高および契約分が3,800戸という驚異的な仕事量を確保している。圧倒的な受注量を抱えるに至ったのは、15年以上におよぶ設計事務所への提案セールスという『深堀経営』が横に広がりだした成果だといえる。曙設備工業所の培った信用実績が、設計事務所から発注元の不動産業者、更にはゼネコンへと拡大された結果、今では取引建設業者は30社以上におよぶ。最近は取引先の中に、上場企業が増えてきた。同社の野田社長は謙虚に語る。「一現場で200から300、更には400戸という大型物件に遭遇できたからこそ、大量の仕事がいただけた」と。07年12月期には、過去にこうむった４億円にのぼる負の遺産を、すべて償却した。売上は22億8,000万円、借入は4,000万円にまで圧縮できるようになったのだ。

つづく

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