インサイダー取引疑惑
問題を重視した金融庁は調査に乗り出した。慌てたパリバは9月16日、第三者による外部検討委員会(委員長:松尾邦弘・元検事総長)を設けて、独自の調査を実施した。検討委員会が「スワップ契約の非公表は法的に問題なく、インサイダー取引に当たらない」と結論を出してくれれば、行政処分を回避できると見込んだ。
外部検討委員会は(1)開示、(2)インサイダー取引、(3)相場操縦、(4)内部管理体制の4点について調査。11月11日、調査結果を公表した。
(1)アーバンは当初、スワップ取引を含めて開示しようとしたが、パリバが開示しないように働きかけたと認定。「一般投資家および市場を軽視した、極めて不適切な行為」で、経営幹部らの責任は免れないと断定した。
(2)スワップ取引は、アーバン株の投資判断で重要な情報である。スワップ契約という未公表情報を知りながらアーバン株の取引を続けていたことは「インサイダー取引に該当する可能性が高い」と指摘した。
(3)作為的な株価操縦行為はなかった。
(4)内部管理態勢が十分に機能していない。
以上が4点の結論だが、パリバはその後、「インサイダー取引に該当する可能性が高い」のくだりを「該当する可能性は否定できない」という表現に急遽変更している。
「スワップ契約の履行として機械的に取引をしていただけで、インサイダー取引に当たらない」と主張しているパリバにとって、インサイダー取引の「可能性が高い」では限りなくクロに近くなるので、「否定できない」にトーンダウンさせたのだろう。パリバ側の狼狽ぶりが見て取れる。
報告書によれば、パリバグループはスワップ組み合わせ取引で11億7976万円の収益をあげたという。
やりたい放題の外資系
同社は2000年にパリ国立銀行とパリバの両社が合併し、社名をBNPパリバとした。85カ国の拠点に16万人の従業員を擁する巨大銀行で、日本では850人の金融のプロたちが、証券・投資銀行業務を行なっている。
余談になるが、日本法人のBNPパリバ信託銀行を東京都が買収し、05年4月に開業したのが「石原(慎太郎都知事)銀行」の異名をもつ新銀行東京だ。
パリバをめぐっては、こんな金融トラブルが発生した。イタリア料理店チェーンのサイゼリヤ(埼玉県吉川市)は、08年9~11月期に約140億円の損失が発生すると発表。BNPパリバ証券と結んでいたデリバティブ(金融派生商品)契約で損失が出たためだ。
デリバティブ契約は2つ。1つは豪ドルの市中価格が1豪ドル当たり78円、もう1つは69円90銭を超えて円高になれば、市中価格を大きく上回る価格で豪ドルを購入しなければならないという契約になっていたため、損失が大きく膨らんだ。パリバは為替相場の予測がはずれると、限りなく損を被るリスクを十分に説明していたのか。
パリバは金融のプロ集団だが、アーバンやサイゼリアは金融の素人だ。スワップやデリバティブといった金融工学を駆使した複雑な仕組みがわかるわけがない。損が出たとき、責任追及を免れる言葉が自己責任だ。パリバはこうした素人相手に荒稼ぎしてきた。
02年にも、他社株転換社債の取引に絡んで、顧客が不利になる株価操縦をしたとして、金融庁より業務改善命令を受けている。今回で2回目だ。しかし、行政処分の理由が、情報非開示問題だけで、インサイダー取引疑惑を不問に付したことに疑問をもつ金融関係者は少なくない。
邦銀が欧米の証券市場で、パリバと同じことをやれば、インサイダー取引と認定され、市場から追放されるからだ。金融庁は外銀に甘い。だから、外銀に好き放題にやられてしまう。(日下淳)